1 事業成果の概要
東北地方太平洋沖地震の発生から7年が経過したが、東日本大震災で被災した文書などの応急処置を継続して実施している。デジタル撮影については前年から活動規模を縮小する形で実施した。あわせて、個人所蔵者からの史料保全の相談対応、家屋解体にともなう緊急救出活動を実施した。個別史料群ごとの目録作成については、東北大学東北アジア研究センター上廣歴史学研究部門の支援により進めた。
広報普及事業については、石巻市での連続講演会など郷土史の普及を通じた被災地支援を行うとともに、自治体の依頼によるデジタル撮影講座に出講した。
運営面では、理事と事務局で構成する運営委員会を新たに発足させ、組織としての運営を推進する方向で事業を実施した。
2 事業に関する事項
(1)歴史資料の救済・保全のための事業
①被災歴史資料の保全作業
ⅰ. 東日本大震災に伴う保全活動
○市民ボランティアによる修復活動
東日本大震災での被災歴史利用への対応を継続的に実施している。前年度に引き続き、ボランティアベースによる活動を実施した。これまでの参加者とともに、新たに参加した市民ボランティア・学生により、週1 日程度の作業を実施した。のべ参加者は333人であった。
当年度は、以下の資料についてクリーニング作業を実施した。
・南三陸町・戸倉小学校資料(2012 年度、東日本大震災での救済)
・宮城県立農業高校図書館・同窓会資料(2012 年度、東日本大震災での救済)
・一関市・O 家資料(2013 年度、東日本大震災での救済)
以下の資料については、クリーニングおよび整理作業を実施した。
・石巻市・K 家資料(2012 年度、東日本大震災での救済)
*東北芸術工科大学・竹原万雄ゼミの協力を得ている。
・栗原市・N 家資料(2013 年度 栗原市からの連絡で救出)
・登米市・Y 文書(ふすま)
*いずれも未了で、次年度も継続して実施予定である。
○岩手県・旧気仙郡での活動
事務局・蝦名裕一が責任者となって、以下の活動を実施した。
・渡辺兼雄氏収集資料の記録化
岩手県大船渡市の郷土史研究者で昨年5月に亡くなった渡辺兼雄氏による気仙郡の古文書解読原稿や写しについて、2017 年8月より事務局・蝦名が写真撮影を実施した。2017 年度は89 家分の写し・解読原稿を撮影した。
・大船渡市・S 家文書の保全
東日本大震災で被災し宮城資料ネットがレスキューした岩手県大船渡市でのS家文書について、事務局・蝦名が所蔵者との交渉、目録と解読原稿を作成するとともに、京都造形大学大林賢太郎ゼミ(近世文書担当)と神戸大学(近現代文書)と連携し、学生や市民ボランティアによるクリーニング作業を実施した。2017 年度は全体のクリーニング作業を完了するとともに、一部の資料の撮影作業を実施した。
ⅱ.松島町の文化遺産を活かした地域活性化事業
2017 年6 月1 日から2018 年3 月31 日にかけて事業を実施し、完了した。詳細は下記の通りである。
事業内容:松島町の文化遺産を活かした地域活性化事業
実施日時:平成29年6月~平成30年3月
実施場所:松島町
従事者の人数:14名
受益対象者の範囲及び人数:松島町の被災所蔵者1名、松島町教育委員会担当者2名
支出(円):500,000
②歴史資料の撮影作業
今年度は、事務局での定期的な撮影作業を実施しなかったため、前年度に比して撮影点数が大幅に減少した。事務局・佐藤が以下の資料を撮影した。
・登米市・Y 文書(2016 年度より継続 所蔵者からの依頼) 7194 点
・丸森町・S 文書(2012 年度より継続 所蔵者からの依頼) 6289 点 *現地での作業
・大和町・K 文書(2017 年度 所蔵者からの依頼) 374 点
③ その他の救済・保全活動
ⅰ. 個人所蔵者方での資料救済活動
○仙台市・M 家資料の緊急救済活動
仙台市の都市道路計画により、6 月から12 月にかけて解体された、国登録有形文化財M家の母屋から、所蔵者の了承を得て、事務局・佐藤が2017 年6 月、8 月の2 度にわたり訪問して、文書やアルバムなど10 箱を搬出した。
○塩竈市・S 家資料の救済活動
塩竈市S 家解体にともない、NPO みなとしほがまからの依頼により、2017 年8 月2 日に副理事長・齋藤と事務局・安田が資料の選別と搬出に協力を行った。そのうち、内張りに引札が用いられた茶箱について、事務局へ搬出した。
○塩竈市・I 家資料の緊急救済活動
塩竈市I 家母屋解体にともない、2017 年11 月27 日に、副理事長・齋藤がNPO みなとしほがまへ協力を行い、母屋の襖12 点と解体された襖の下張り1 袋分を搬出した。
○大和町での緊急史料保全
同町吉岡地区にて、約250 年存続した住民組織が引き継いできた関連文書について、2017年度時点の管理者からの依頼により、2017 年12 月27 日、2018 年3 月24 日の二度にわたり、事務局・佐藤が撮影を行った。
ⅱ. 古文書資料返却事業
2017 年度は、登米市の3件の所蔵者方に対する返却を実施した。なお現時点での返却・所蔵者確認の状況は下記の通りである。
(1) 返却が完了したもの 18件 3115点
(2) 絶家・転居先不明のため地元自治体に保管を依頼したもの 3件 199点
(3) 現在の所蔵者が判明しているもの 10件 4232点
(4) 現在は絶家・転出した、あるいはその可能性が高いもの 2件 456点
(5) 現所蔵者の確定が必要な資料(未詳分含む・その他は除く) 38件 1405点
ⅲ. 一点目録の作成
○事務局担当分
事務局での作業として、以下の作業を実施した。
・栗原市・N 家資料 約1万点(未了)
・石巻市・H 資料(2011 年度 東日本大震災にて救済) 193 点(未了)
・大和町・Y 講関連文書 31 点 完了
・登米市・Y 文書 358 点(未了)
○東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門協力分
・白石市図書館貴重書目録 406 点
・南三陸町歌津伊里前契約会文書目録 1,818 点
・加美町米谷家文書目録 3,408 点
・当別町吾妻家文書目録 8,409 点
・川崎町佐藤仁右衛門家文書目録 23,135 点
・仙台市宮城野区加藤家文書目録 101 点 すべて完了
(2)歴史資料の所在確認のための事業
組織的な所在確認調査は行っていないが、前述「(1)①」の2件も含む個人所蔵者3件から電話や書面での相談を受け、所在情報を収集した。
(3)広報・普及事業
本年度は、東日本大震災の被災地となった宮城県石巻市での連続歴史講演会を行った。また、行政からの依頼による普及のための講座を実施した。
①歴史資料保全のための講演および講演会
ⅰ. 宮城資料ネット講演会
・2017 年6 月17 日 PARM-CITY131 貸会議室ANNEX 多目的ホール(仙台市)
・講演 上山眞知子(山形大学)「東日本大震災後の心理社会的支援~歴史資料レスキューへの期待~」/蝦名裕一(東北大学)「史料保全と文理融合を両輪とする歴史災害研究へ」
・参加20 名
ⅱ. 石巻市での連続歴史講演会「よみがえる北上川河口の歴史」
・会場 河北総合センタービッグバン(4回とも)
・第2回 2017 年5 月27 日 午後1時~3時 来場者80 名
高橋美貴(東京農工大)「古文書から見る江戸時代の追波の深林と村びとたち」
平野哲也(常磐大)「江戸時代北上川下流域における自然と社会―川とともに生きた百姓・家中―」
・第3回 2017 年7 月15 日 午後1時~午後3 時 来場者30 名
菊池慶子(東北学院大学)「体験講座・古文書に見る江戸時代の家族と相続-桃生郡橋浦村「宗門人別帳」を読む-」
・第4回 2018 年2 月10 日 午後1時~午後3時 来場者60 名
佐藤大介(東北大学)、信太大樹・髙橋直道・畑江昭太・山田大樹・横山匡佑(東北大学生)「片倉小十郎、北上川を歩く―新発見の紀行文「雲容水態」」
・第5回 2018 年3 月6 日 午後1時~午後3時 来場者50 名
佐藤大介(東北大学)「仙台領長面塩田の開発」
各回のアンケートでは好意的な評価とともに、継続を望む声が多く寄せられた。
②展示・体験講座
ⅰ. 古文書によるデジタル撮影講座
宮城県南資料館等連絡協議会での講座
・2018 年1 月31 日 於・まるもりふるさと館
・角田市・丸森町・柴田町・村田町・七ヶ宿町・亘理町・山元町 10 名
・災害時の歴史資料保全活動の実態と、デジタルカメラによる撮影方法について講習
ⅱ. 襖下張り剥がし・関連講座
○山形歴史遺産救済ネットワークへの出講(50 名)
5月13 日に米沢短期大学で行われた山形資料ネットの襖の下張り剥がし作業に、事務局の蝦名裕一が講師として参加し、下張りの剥がし及び保全作業を共同で実施した。
○ワシントン大学学生への講座 (30 名)
6月29 日、東北大学災害科学国際研究所でおこなわれたワシントン大学”Engineering Japan;Exploring in the Heart of High-Tech”の一環として訪問した理工系学生20 名に対し、事務局の蝦名裕一が東日本大震災において宮城資料ネットで実践してきた資料保全に関する
講義をするとともに、襖の下張り文書の保全のワークショップを実施した。
○アジア学生交流環境フォーラム(80 名)
7月2日、東北大学災害科学国際研究所でおこなわれた「アジア学生交流環境フォーラム」の一環で訪問した早稲田大学とアジア8大学の学生らに対し、事務局の蝦名裕一が東日本大震災において宮城資料ネットで実践してきた資料保全に関する講義をするとともに襖の下張り文書の保全のワークショップを実施した。
○米沢女子短期大学史学実習(50 名)
12 月21 日、米沢女子短期大学で開催された史学実習において、事務局の蝦名裕一が資料保全に関する講義および襖の下張り文書の保全のワークショップを実施した。
ⅲ. 大学ゼミ旅行などの受入対応
○8 月13 日~14 日 中央大学文学部白根ゼミ(6名)
事務局・佐藤が東日本大震災時の歴史史料保全活動の意義について講座を行うとともに、事務局・安田の指導による被災資料対応の体験を行った。
○2 月16 日 一橋大学石居ゼミ(13 名)
事務局・佐藤が東日本大震災時の歴史史料保全活動の意義について講座を行うとともに、事務局・安田の指導による被災資料対応の体験を行った。
③その他の普及活動
○「未来への教科書 #110 歴史はよみがえるのか」英語字幕版の作成
2015 年12 月26日にBS12 チャンネルで放映された、宮城資料ネットなど東日本大震災被災地の歴史資料保全活動を取り上げた番組について、制作会社である有限会社アースボイスプロジェクトの了承・協力を得て、東北大学文学部研究生ジョン・ダミコ氏訳、本会モリス・ジョン理事の監修により作成した英語字幕を付した映像を作成した。2017 年7 月11日より、YouTube にて公開されている。
○山元町歴史民俗資料館への協力
山元町指定文化財である(蓑首城)「茶室」の襖の解体と下張り保全作業について、2017年9 月1 日に事務局の安田容子が協力した。「茶室」の襖1 点について、記録のとり方、解体方法についての指導を行い、山元町生涯学習課・瀧本正志氏と襖の解体作業を実施した。
○宮城県川崎町文化財報告書の刊行
宮城県川崎町で、同町教育委員会や川崎町歴史友の会と協同で実施してきた川崎伊達家文書、佐藤仁右衛門家文書の保全活動の成果の一部として、蝦名裕一と高橋陽一が編集・執筆した史料集『川崎町の文化財第12 集 古文書』500 部(限定)が、川崎町より刊行された。
○秋田県由利本荘市での史料保全活動
本荘由利郷土史研究会では、平成24 年度より田県由利本荘市で史料保全活動により取り組んでいる。本会では、同研究会会員でもある今野真理事を通じて、古文書デジタル撮影や目録作成の技法、中性紙封筒の提供などの支援を行っている。今年度は、由利本荘市教育委員会より、個別の史料群4家の目録と、『本荘市史』調査対象史料の現況報告の成果などを掲載した『由利本荘市歴史資料保全目録』が、2018 年3 月に刊行された。
④会報「宮城資料ネット・ニュース」について
第285 号(2017 年4 月6 日)より第303 号(2018 年3 月26 日)まで18 回発信を行った。ただし、そのほとんどはボランティア募集に関するもので、活動状況についての発信が十分に出来なかった。
⑤公式サイトのリニューアルについて
基本デザインを依頼した。次年度に更新予定である。
(4) その他
○文化遺産防災ネットワーク推進会議
文化庁による文化遺産防災ネットワーク推進会議に、事務局・佐藤が、構成団体事務担当者として、5月24日、11月22日に東京国立博物館で開催された定例会議に出席し、東日本大震災の活動状況の報告や、7月に発生した九州北部豪雨への対応(個人所蔵者、うきは市教育委員会への連絡)について報告した。また、3月19日に東京国立博物館で開催された行政担当者向けの「地域の文化財防災体制に関する協議会」に参加し、東日本大震災の活動経を踏まえ今後の大災害時における行政の対応について助言した。
○財団法人斎藤報恩会助成金の活用について
2015年に解散した財団法人斎藤報恩会から、財産分与の一環として譲渡された270 万円については、清算委員会から斎藤報恩会の名前が残る形での活用という要望があった。そのことを踏まえ、史料集を刊行する方向で企画することとなった。運営委員会での協議を経て、斎藤副理事長が中心とした事業委員会を発足させることとなった。12 月14日に、仙台市博物館にて打ち合わせを行った。
3 運営に関する事項
(1)理事会・総会
①理事会
・2017年4月7日~8日 メール理事会 通常総会の日程及び会場について
・2017年9月21日 メール理事会 運営委員会の発足について
②通常総会
・2017年6月17日PARM-CITY131貸会議室ANNEX 多目的ホール(仙台市)出席した社員数 20 名(ほか、委任状提出者65 名)
(2)運営委員会の設置・事務局体制の再編
前年度まで事務局員の判断を中心に事業を実施してきたが、組織的な運営の推進や、責任の所在を明確にするなどの理由により、通常総会にて運営委員会の設置が承認された。2018年3月末日時点での構成員は以下の通りである。
平川新(理事長) 斎藤善之(副理事長) 柳原敏昭(副理事長) 菅野正道(監査)佐藤大介 蝦名裕一 安田容子 荒武賢一朗 高橋陽一 友田昌弘 今野豊
本年度は以下のように開催した。
・第1回 2017年10月25日(於・東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室)
公式サイト更新/保全活動の体制/斎藤報恩会助成金の取り扱いについて
・第2回 2018年1月25日
通常総会・理事会の日程/史料集刊行/公式サイト更新/次期役員の構成について
(3)会費・活動資金について
個人会費の納入については、比較的良好な割合を保っている。団体賛助会員については個人会費を上回る状況となっている。
一方、今年度は個人会員数が20 人近く減少した。団体賛助会費についても一部は削減が見込まれている。次年度はサイト管理費やデータ保管費などの管理費が増大する見込みである。各種の情報提供など、入会・組織維持の意義を実感できるような対応の検討が求められる。
(4)会員の増減について
2018 年3 月31 日現在の会員数は以下のとおりである。
正会員 118 名(前年比 -10 )
賛助会員 36 名(前年比 -8 )
団体賛助会員 9 団体(前年比 +1 )