352号 台風19号 大郷町での被害状況調査を実施しました

2019台風19号救う―救済活動

今回の台風19号では宮城県も大きな被害を受けました。特に丸森町をはじめとする県南地域や、大郷町を中心とした吉田川流域地域では、現在も行方不明の方の捜索や被災された方々の生活復旧に向けて懸命に進められているところです。宮城資料ネットとしてもあらためてお見舞申し上げますとともに、一日も早い生活復旧・復興がなされることをお祈りいたしております。

さて宮城資料ネット事務局ではこの間、被災地の歴史資料や文化財の被災状況の把握に務めるべく、関係各位・機関と連絡をとりつつあるところですが、10月18日(金)に事務局の蝦名裕一、川内淳史の2名が、大郷町における歴史資料・文化財被害状況の調査を実施いたしましたので、ご報告いたします。

1. 事前準備
今回の台風被害は丸森町や大郷町などの大きな被害を受けた地域をはじめ、被害は宮城県全体の広域にわたることが予想されました。そこでGoogleマップを用いて、国土地理院が公表している「浸水推定段彩図」および大郷町指定文化財所在マップ(蝦名作成)に、宮城資料ネットが保持している所在一次調査リストを重ね合わせ、それをスマートフォンで見ながら、歴史資料や文化財の被災の可能性がある地域を順次まわりました。

国土地理院「浸水推定段彩図」を地図に重ねる。吉田川流域の浸水範囲を把握。

Googleマップに資料情報を重ねあわせ、スマートフォンで見ながら巡回

2. 被害状況調査
① 大郷町鶉崎地区および土橋地区
吉田川は大郷町域の中央部をほぼ東西に貫いて流れています。私たちはまず吉田川右岸(南側)西部の鶉崎地区および土橋地区に向かいました。この周辺には大小寺遺跡(古代寺院跡)や二渡神社などを事前情報として把握していたので、それらを中心にまわりました

鶉崎地区・土橋地区の調査ポイント

二渡神社で近所の方にお話しをうかがったところ、神社や集落手前の水路や水田などは、吉田川からの溢水で浸水したとのことでした。集落や神社境内は微高地となっており、そのため溢水も手前で止めることができたのだろうと思います。

② 中粕川地区
一方、吉田川を渡り左岸(北側)にある中粕川地区は全く様相が異なりました。吉田川の堤防決壊点付近の中粕川集落は甚大な被害を受けていました。

中粕川地区の調査ポイント

中粕川地区では堤防決壊点付近で甚大な被害が発生しており、決壊点真横の寺院では本堂が被災し、墓石が押し流され什器が被災しているのが確認されました。なおこの寺院には被災前には「マリア観音」と呼ばれる観音像が保管されていましたが、被災後行方不明となっているとのことです。

*堤防決壊で濁流に飲み込まれる…糟川寺に祀られていた“マリア観音”の行方は?〈宮城・大郷町〉
https://www.fnn.jp/posts/2019101600000011OX/201910162104_OX_OX

一方、中粕川集落より北側にある、堤防決壊点より少し離れた地域では、浸水跡などの様子は見られたものの、大きな被害は見られませんでした。調査ポイントであった下り松追跡や八幡神社でも浸水被害はなく、少し離れただけで被害状況が全然違う様子がわかりました。

③味明川流域地区
吉田川の支流・味明川の左岸(西側)の地域も、大きな浸水被害を受けていました。調査ポイントの羽生天神社の境内には大きな被害は見られなかったものの、その麓の個人宅は大きく浸水被害を受けていました。

味明川流域地区の調査ポイント

また、被災ゴミとして捨てられていたいくつかの襖には古文書のある下張りが確認され、すでに下張り文書がゴミとして廃棄されつつある現状に、私たちの調査が一歩遅かったかと、愕然といたしました。

④大松沢地区および大崎市(旧鹿島台町)川前地区
次に向かったのは大郷町域の北東部、吉田川の支流・鶴田川流域に広がる大松沢地区でした。大松沢地区の調査ポイントであった箭楯神社(町指定史跡)は浸水被害は確認されませんでした。

大松沢地区および大崎市(旧鹿島台町)川前地区の調査ポイント

その近くにある大松沢社会教育センターが町指定の災害ゴミ受け入れ場所となっており、近づいてうず高く積まれたゴミの山を眺めてみると、襖や行李など、歴史資料が含まれている可能性のあるものがいくつか確認されました。急いで作業に集積場で作業にあたっていた町職員の方にお願いをし、確認させていただいたところ、さしあたり襖の下張や行李の中には古文書等については含まれていませんでした。

次に、吉田川と鶴田川に挟まれた地域である大崎市(旧鹿島台町)川前地区を訪れました。川前地区も大きな被害を受け、沿道に災害ゴミが積み重ねられていましたが、夕刻が迫り時間切れとなり、集落の様子を見るだけで、調査を終了しました。

3. 調査を終えて
今回の台風19号に関しては、事務局としては初めての現地調査となりましたが、当初考えていた以上に県内の被害は大きく、また広域であると考えられます。

また、被災地では現在、災害ゴミの受け入れが急ピッチに進められており、すでに廃棄された資料等がある可能性が非常に高いと思われる一方、復旧作業に町職員は従事しており、文化財行政には十分に手がまわっていないことが予想されます。今後も宮城資料ネットとしては関係各所との連携を図り、被害状況の把握につとめるとともに、歴史資料の救済・保全活動へとつなげていけるよう、対応していきたいと考えております。

みなさまのまわりで古文書など古いものの被災の情報や、処置にお困りのことがありましたら、どうぞ宮城資料ネットまで情報をお寄せ頂きます様、お願い申し上げます。

(文責:川内淳史)