370号 新型コロナウイルス感染拡大と史料・記録保全

COVID-19

ご承知のように、新型コロナウイルスの感染が拡大しております。皆様におかれましても、十分ご注意ください。
宮城資料ネットの活動については、3月は定例の活動を取りやめました。4月については、感染症専門家の助言なども踏まえ、追ってご連絡いたします。

世界中で多くの犠牲者を出し、また社会・経済に大きな影響をもたらしている現下の状況は、まさしく「災害」であり、世界史的な出来事だと考えられます。
ウイルスそのもので、古文書などの記録が物理的に損なわれるということがあるのかは分からないのですが、宮城県内では江戸時代に創業した温泉旅館が今回の事態で廃業、といった報道を目にしました。史料を所蔵する個人・民間団体に及ぼす影響が、史料の大量流出を招く、といった事態も考えておく必要があるのかもしれません。

一方、今回の状況を様々な形で記録したものは、「災害資料」としての意味を持つと考えられます。
去る3月10日、日本政府は今回の事態について、公文書管理ガイドラインに基づく「歴史的緊急事態」に指定しました。記録保全への意識が少しずつではあっても高まっている、と感じられます。ただし、3月22日付けの毎日新聞によれば、残すべき「記録」については政府の恣意が入る余地が指摘されているようです。将来参考になる記録が、適切に保全されていることを願うばかりです。
もし欧米式の公文書管理システムであれば、作成直後から記録は公文書の管理下に置かれ、評価選別はアーキビストと呼ばれる専門家が行います。日本の場合はそのような管理システムを取っている自治体はごくわずかであり、またそもそも公文書が存在しない地方自治体が圧倒的多数です。2018年現在の市町村の公文書館設置割合は、1721自治体のうち91で、わずか5.6パーセントに過ぎません。自らが暮らす町の公文書から今の状況を振り返る、ということが出来るのか、心許なく感じられます。
また、公文書ではない形の記録も、この間多数作られています。行事の延期や中止を伝えるチラシ、マスクや消毒液の売り切れや、営業の短縮を伝える店舗の案内などは、日々目にしているかと思います。デジタルカメラやスマートフォンなどで街の様子を撮影している方も多いでしょう。また、ウェブ上では真偽定かならぬものも含めて、目下の社会の様子を伝える膨大な記録が作られています。
江戸時代の有力者が私的に作成した飢饉の記録から、公的記録では知り得ないような意外な情報を得て「恩恵」を受けている身として、上記のような民間の記録は、個人の心情や社会の動きを知るための重要な記録だと確信します。では、それらをどのように保全するのか。
日本において「災害記録」の保全の嚆矢となったのは、1995年1月17日の阪神・淡路大震災でしょう。それから25年目を迎えた年の今回の事態は、「災害記録」の役割を改めて考えさせられる機会になっていると感じます。現在進行形の記録をどのように残したらよいのか、従来の経験や、デジタル記録への対応も含め、考えてみたいところです。
身の安全を最優先にすべき状況の中、史料や記録のことを述べる段階ではないのかもしれません。しかし、活動が制約されつつある中で可能なことをと考え、ささやかながら発信する次第です。(佐藤大介)

参考
毎日新聞3月22日「新型コロナ「歴史的緊急事態」で記録は消されるのか 見え隠れする「桜」の手法」(有料記事)
https://mainichi.jp/articles/20200321/k00/00m/010/183000c
公文書管理条例等の制定状況に関する調査について – 総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000542521.pdf