411号 事務局長退任のご挨拶

守る―保全活動広める―普及活動救う―救済活動

宮城資料ネット事務局長の佐藤大介です。6月30日をもちまして事務局長の任から退くこととなりました。14年間の間、多くの方々に御世話になりましたことを、心より御礼申し上げます。

就任したのは2007年4月のNPO化直後。想定宮城県沖地震が懸念される中での「災害「前」の保全活動」を進めている状況でした。ところが、その翌年6月に岩手・宮城内陸地震が発生。そして2011年3月11日の大地震・大津波という未曾有の大災害となりました。多くの歴史資料が失われてしまいました。その一方で、多くの人々の善意によって、消滅の危機を免れたものもまた多くありました。

311の余波は今も続いています。一方で、あの大災害を契機に、応急処置方法やIT技術の活用、さらに市民連携による新しい史料保全の形が生まれてきました。
その中で、「ひたすらに被災した古文書を、安全な場所に運ぶのみの私」は、それらについて行けない「311以前の人間」であることを、近年自覚しつつもありました。

それ以前に、一人の人間が14年間も同じ役職に就いているのは、組織として好ましいこととはいえません。震災10年を機会に退任を申し出て、6月6日の理事会・総会にてご了承いただいたところです。

この間の運営はもちろん私一人で行ったものではなく、平川新初代理事長を初めとする役員、会員の皆様に支えられてのことでした。また日常の活動は、仙台地区の大学院生、ポストドクターの皆さんの力あってこそでした。多くの皆さんは、今は大学や史料保存の現場で第一線で活動されています。私でも大役が務まったのは、人に恵まれていたから、ということに尽きます。一々お名前を挙げませんが、記して感謝申し上げます。

311以降は、現在まで延べ5000人を超える市民ボランティアによる活動に支えられています。もはや私よりも作業に習熟している方々を、「専門家ではない」という寓意で「市民ボランティア」と呼ぶことは不適切なのかもしれません。全くの善意頼みになっていることに心苦しさも感じつつ、引き続きのご尽力をお願い申し上げる次第です。

「地域の古文書・記録を守ろう」。この10年で、意識は共有されたのでしょうか。「あれだけの経験をしたのに」と思うこと、「少しずつでも変わってきている」と感じること、両方あります。

市民ボランティアの中から、古文書解読サークルが複数生まれたことは、歴史資料の秘めた力を再認識させられます。10年前に学生だった史料レスキュー経験者が、各地で文化財保護の業務に就き、情報交換する機会も増えたことは、将来への明るい兆しといえるでしょうか。かつて投げ込みをしても報道してもらえなかったマスコミには、今年2月13日の地震では保全呼びかけの協力申し出を受けました。「只管救助」が、2018年12月のユネスコ本部(フランス・パリ)での活動報告につながっていったのは、私個人や宮城の活動だけではなく、阪神・淡路
大震災から四半世紀の日本列島史料レスキューの結晶でもあると考えています。

地域の古文書・記録の保全は、あれから10年をへても、制度上は「そこに居合わせ、残したいと思った人が、すること」であり続けています。このような善意頼みのみでは、推計20億点とも50億点とも試算される地域の古文書・記録をすべて残すことは不可能です。私有物への公的な対応の根拠や、それに関わる人が安定した立場で、持続的に取り組めるような「制度作り」は課題であり続けており、私も含めた「その立場にある者」の一層の尽力が必要です。

一方で、善意からの活動が、さらなる古文書や記録、そして人との縁につながるということも、数多く経験しました。制度では吸収しきれない「将来の価値」を見据えた活動であるがゆえに、「居合わせた人の善意」と、そこからのつながりは、これからも重要な要素でありつづけるでしょう。所蔵者、地域の皆様、関係者が一人でも多く、輪に参加してほしいと思います。

私自身は、7月1日より副理事長を拝命することになりました。職位は上がるのですが、基本的には一兵卒として、新体制の裏方に徹しつつ、保全した史料の共有や、14年を経ても未了の、かつての研究者による古文書返却などの課題に努める所存です。

新しい事務局長には川内淳史さんが就任されます。神戸大学特命講師、歴史資料ネットワークの事務局長および副代表を歴任され、2018年10月より東北大学災害科学国際研究所准教授として、この間の災害対応や広域連携の構築、さらにはボランティア作業の運営などの中心として活躍されています。前事務局長の力不足で果たせなかったあらたな災害対応のありかた、また組織の次世代への継承という宿題に、道筋を作れると確信いたしております。新事務局長、また本会への倍旧のご支援を、心よりお願い申し上げます。

末筆ながら改めまして関係の皆様にお礼申し上げ、結びといたします。14年間、ありがとうございました。