102号 東日本大震災 被災地より(その3) 仙台市

救う―救済活動東日本大震災

 宮城資料ネットの佐藤大介です。あの大地震発生から一ヶ月が経過しました。被災地では、いまでも多くの方が困難な生活を強いられています。事務局のある仙台市内は、ガソリンや生活物資はある程度確保できるようになってきましたが、都市ガスは復旧途上です。そのような中では、歴史資料保全活動を行うことができていること自体に感謝すべきだと考えます。

 このメールを書いているさなかにも、福島県浜通りで震度6弱を観測する余震が起こり、仙台の事務局も大きな揺れに見舞われました。

 今回のニュースは、4月6日に実施した仙台市での歴史資料保全活動についてです。

ふすまの下張り文書を確認
窓枠などが取り外された旅籠部分解体のつかの間
往時の姿がよみがえった
保全した下張り文書の解体作業

■震災で姿を消した近世松島の旅籠建築
 今回保全活動を行ったのは、仙台市宮城野区にある旧岩切郵便局の建物です。庁舎部分は1902年に建築され、宮城県の近代化遺産に指定されていました。さらに2年ほど前の調査で、日本三景の一つである松島の、近世から明治時代初めにかけて随一の旅館であった「扇屋」の建物が一部移築されていることがわかりました。

 この建物は、1960年代に郵便局としての役目を終えた後、集会場として利用されていました。しかし震災以前から老朽化が進み、上記調査の際の報道によれば、所有者の方は建て替えを検討されているとのことでした。結局、建物は今回の震災を契機に解体されることになりました。私たちが必要なものについては搬出するご許可をいただきましたので、メンバー4人で保全活動に向かいました。

 午前中に私たちが到着すると、すでに解体作業は始まっていました。ふすまの下張りに使われている古文書があるというお話があり、実際に文書があるのが確認されました。槌音が響く中、あわただしくふすま十数枚を搬出しました。このほか、床板に転用されていた庁舎部分の指図(図面)や、装飾品などを保全することができました。この間も、解体はあっけないほどの手際よさで進められていきました。

 仙台・宮城に暮らした人々の歴史的な営みを伝える建物が、この震災でまた一つ消えていきました。

■保全された下張り文書
 一方、今回は一部の部材と、膨大なふすまの下張り文書を保全することができました。下張り文書については、早速解体に取りかかっています。全容の解明には当分時間がかかりそうですが、1903年、すなわち今回解体された建物が竣工した翌年の岩切郵便局の業務日誌が使われていました。さらに、江戸時代の戸籍ともいえる宗門人別改帳や、幕末仙台藩の専売制に関係する史料も見られます。

 建物は姿を消しましたが、岩切郵便局、さらにはそれよりも古い時代に、岩切周辺を行き交った人々の営みを知る手がかりが、私たちの元に残されたのでした。