108号 東日本大震災・位牌堂の復旧活動
2011.04.19
宮城資料ネット理事 柳谷(菊池)慶子
4月17日(日)、県北にある寺院の位牌堂の復旧作業を行いました。本堂奥にある位牌堂には三段の棚上に江戸時代の歴代当主とその家族の位牌が厨子に納められて安置され、また開山以来代々の住職の位牌、大般若経を納めた経箱、仏具なども置かれていました。位牌・厨子は大きいもので1m近くあるものから、30cmほどのものまで、全部で50基ほど。これらの大半が3月11日の地震で転倒して棚から秩序なく落下し、さらに4月7日の余震で被害が大きくなりました。お寺だけでは元通りに戻すことが困難であるとして関係者から復旧活動の依頼があり、依頼者とご家族、和尚さんとともに終日作業にあたりました。
まずは位牌堂の中のものすべてを本堂に運び出しました。厨子の多くは金具がはずれて扉がこわれ、中の位牌が外に飛び出していました。扉はばらけた状態のものもあり、大きさの違う扉などから合うものを見つけ出して、元のかたちを復元しました。位牌の多くは土台や上部が組み立て式であることがわかり、はずれて迷子になっている部分を探して慎重に合わせて復元を試みました。
その後、厨子からはぐれた位牌を元の厨子に納めるべく、墨書の説明書きを確認し、大きさを見極めるなどして、大方は元の姿となるように整えました。しかし、厨子の多くは損傷しており、さらに位牌は美しい意匠部分が破損したものがあり、仏像や仏教美術の専門家に修復を委ねる必要があります。
とりあえず厨子と位牌をほぼ元通りのかたちに復元できたことで、安全性の確保に考慮しながらこれらを位牌堂に戻し、午前10時半から始めた作業を午後5時過ぎに無事終了しました。
作業の傍ら系図をもとに位牌に刻まれた法名の主を確認してみましたが、初代から13代まで、江戸時代の当主の位牌が揃っているだけでなく、妻室と実母、童子・童女の位牌も揃っており、さらに位牌および厨子にほどこされた意匠は夫婦や親子のつながりを示すものとしても興味深いものでした。女性たちの位牌の装飾には実家の家紋もみられます。明治初年に神式でつくられた位牌は「神儀」と刻印され、初代の父の位牌はこの時期に神儀としてつくられていたこともわかりました。このたびの活動は思いがけず位牌の歴史史料としての価値を考える機会となりました。それだけに震災で損傷したことは痛ましく、文化財の修復の手立てをお寺や個人で背負うだけでなく、支援の方法を考える必要性をあらためて思いました。
お寺に向かう途中、県北地域の一部を車で見て回りましたが、旧家の門が大きく傾いていたり、土蔵の白壁・海鼠壁の剥落、壁板からの土壁の剥離などの損壊状況がみられ、シートをかけて凌いでいる様子が目立ちました。内陸部の街道沿いの古建築についてあらためて調査が必要であろうと思います。
今回の活動には資料ネットから6名が参加しました。