111号 東日本大震災 被災古建築調査の開始にあたって

救う―救済活動東日本大震災

 NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク(以下宮城資料ネット)関係者の皆さん初めまして。私は福島市に暮らしている佐藤敏宏(活動家・建築家・一級建築士・HP世話人)と申します(私の活動はこちらのサイトにてご覧ください/TAF設計 佐藤敏宏の建築と生活 http://www5c.biglobe.ne.jp/~fullchin/p2/p-2.htm)。

 4月11日に平川新理事長より東日本大震災における歴史的・伝統的建築の被災状況調査などを依頼されました。私が全国各地から結集する建築関係者も、同様の依頼に基づき被災地での建築調査を行うことになります。

 今回は依頼の内容に基づき、金沢から古建築改修などの専門家である橋本浩司と造園家である中村彩、京都から建築構造専門家の満田衛資を集め、第1回目の調査を4月14日から14日まで行い、調査報告書を作成しました。

明治の古図と建築構造を照合(満田)

 12日は石巻市門脇地区に奇跡的に残った一軒の蔵の被災状況調査と補修の方法を提案しました。13日は村田町歴史みらい館の方々と共に、武家屋敷と15蔵の被災店蔵などの調査を行い、今後の方針について相談してきました。それを基に、行政を通じて村田町の人々へ「被災蔵対策の呼びかけ」の文章を作成し配布していただきました。14日は岩沼市市史編纂室のみなさんと共に2つの屋敷を調査し、その場にある材料で応急処置を施したのち御当主の方に直接口頭で橋本から被災蔵の今後の保存をお願いしました。

 各被災地の蔵の被災状況は、地盤の多様性、建設当時の基礎構造施工技術、竣工後の保全工事の回数、それらの組み合わせによって異なっています。共通していることは塗り壁の剥落と亀裂です。それらは部材の組み合わせによって作られる木造建築が地震に遭うと水平に掛かる力を分散するため、部材がそれぞれに揺れ地震力を吸収しようとします。そのことで蔵本体の安全性を保っているので、保全が悪い蔵を除きますと骨組みが大きく損なわれている蔵は少ないように思います。

現場の丸太を使いひさしの崩落を防ぐ
応急処置を施す(橋本・中村)

 蔵の仕上げである塗り壁の剥落と亀裂は、構造上の安全が保たれていても「地震で壊れた」という印象を御当主の方々に与えてしまっていました。ケヤキの巨大な柱や梁をもつ蔵や主屋などをこれから新しく建築することは不可能ですので、解体費用を補修と耐震改修費に廻すことで蔵を保全し使用し続けることをお薦めしております。なお、蔵は個別に特性が異なるので個別の対応が必要ですので、今後も調査を進め、現代工法も取り入れながら、新たな伝統的建造物の保全方法を考えていきたいと思っております。

 村田町では行政の協力を得ながら、定期的に私達や全国各地の建築技術者に呼びかけ参集していただきます。震災時に蔵を持つことで起こる様々な問題を集めたり聞き取ることで、今後これらの建物をどのように保全してゆくか、共に考え続けることにしました。お互いに語り合うことで、歴史的・伝統的建築物の置かれた問題の対応策を見出そうとしております。引き続きご支援とご協力の程、よろしくお願い申し上げます。


 今回の大震災に際しては、古文書などの歴史資料はもちろんですが、これまで日本の伝統的な風景を形作ってきた歴史的・伝統的建造物の取り壊しが急速に進む状況です。

 宮城資料ネットではこのような状況を踏まえ、建築の専門家に依頼し、伝統的建造物の保全や記録化などにも、可能な範囲で取り組むことといたしました。本号では建築関係者の組織化にあたってリーダー役を依頼した、TAF設計代表の佐藤敏宏さんにご寄稿いただきました。(事務局・佐藤大介記)