113号 東日本大震災 被災地より 104年間「お宝」を守った土蔵-仙台市での保全活動
2011.04.24
宮城資料ネット事務局の佐藤大介です。今回は4月22日に仙台市で実施した史料保全活動の報告です。
幕末に仙台藩の蔵元商人などを勤めたO家の土蔵は、3月11日の本震と、4月7日の余震で、南側に大きく傾くなどの損傷を受けました。震災以前からの老朽化もあり、このほど取り壊されることになりました。土蔵には、幕末から昭和初めまでの古文書や書類、刀剣類、古美術品などが収められていましたが、古文書については仙台市史編さん事業で整理され、仙台市博物館で保管されるなど、多くの史料が震災以前に蔵から出されて保存されていました。
その一方、震災直後に御当主をお尋ねした際、明治初めに紅茶製造業を営んだ際に使った道具など、まだほかにも貴重なものがありそうだというお話がありました。そこで、事務局から、土蔵を取り壊す前に、蔵の中の道具類などを安全な場所に搬出する御手伝いをさせてほしいと依頼し、ご了承をいただきました。その結果、今回の保全活動を実施することになったのです。保全に先立って、御当主が倒壊防止のため足場を組むなど応急処置をしてくださいました。
当日はあいにくの小雨模様のなか、東京からの参加者2名も含む14名で作業を行いました。応急処置が施されているとはいえ、傾いている土蔵での作業は危険が伴うため、中に入る人数を最小限に留め、リレー方式でひとまず敷地内の安全な場所に搬出しました。土蔵の中には、幕末から明治時代に同家が収集した多くの什器や道具類や和本、さらに若干の古文書類も残されていました。道具類の箱書きには入手した年代や産地が記されているものも多く、これまで調査された古文書類とあわせ、幕末から明治時代における仙台商人の家財収集の実態や嗜好を知る手がかりとなると考えられます。
今回取り壊しとなる土蔵は、1907年(明治40)に完成したそうです。3年間かけて作られた土蔵には、土壁を作る際、近所の子供たちを集め、泥玉を壁に投げつけさせた、といったエピソードも伝えられています。その土蔵は、完成後に起こった、1945年(昭和20)7月10日の仙台空襲、1978年(昭和53)年6月12日の宮城県沖地震、そして今回の東日本大震災といった大災害から、古文書や家財を見事に守り抜いたのでした。
時を経て、地域にとっての「お宝」になったこれらの史料を、今後どのように保全してゆくのか。人々の力を合わせて史料を保全する新しい仕組みを考えることが、今回の震災をもって役目を終える土蔵に対するなによりの餞となるのではないかという思いを強くし、現場を後にしました。