123号 宮城歴史資料保全ネットワークの文化財レスキューに参加して

救う―救済活動東日本大震災

京都造形芸術大学 大林 賢太郎

 宮城歴史資料保全ネットワークの活動は時折発信されるニュースレターで知っていました。C家の書画の修復についての呼びかけに対して、専門家として処置の緊急性があるかどうかを調査する事を申し出ました。レンタカーで現地へ行く手配を進めていると、平川先生からそのお宅の近くでレスキューの申し出が1件あったので、そちらにも対応して欲しい旨の連絡がありました。どうせ車で行くのならとお引き受けし、レンタカーをバンタイプのものに変更しました。

■5月6日

 ANAの始発便(大阪7時15分発)で仙台入りしました。空港近くではまだ信号が復旧しておらず、警視庁の警官が交通整理をしていましたが、しばらく行くと信号も交通も普段通りに見えました。仙台駅でレンタカーを借りて宮城歴史資料保全ネットワークの事務局に立ち寄ってレスキュー用の資材を受け取り11時過ぎに出発しました。

津波で水損したS家文書
(金野聡子氏提供)

●S家文化財レスキュー
 現地在住の紙本修復家金野聡子氏が既に整理梱包を進めてくださっていたので、到着後は所有者の方に確認していただきながら箱に番号を付けていきました。段ボール箱・木箱等合わせて16箱(大船渡市の地元近代資料、太平洋セメントや染色などの関係資料)を箱詰めし、バンに積み込みました。

●C家コンディション調査
 襖は以前に見せていただいた写真のとおりの状態でした。しかし、その場所を触ってみた瞬間、状況は一変しました。まだ濡れていたのです。週明けからは気温が上昇するとのことでもあり、処置を急がなければと考えるものの、ここで乾燥処置をしたものか、どこか近隣まで運んで処置するべきか。残念ながら結論は出ませんでした。仙台に帰って相談の上で再度連絡をすると言うことでその日は引き上げました。

■5月7日

●宮城歴史資料ネットワークでS家資料の応急処置
 ボランティアに集まってもらって作業する日だったのですが、急遽、昨晩移送したS家資料の開梱、泥落とし、乾燥処置を行いました。現地では開けられなかった家紋入りの木箱の中には江戸期の古文書が整理された状態で納められていました。(この日の作業は宮城資料ネット・ニュース120号に掲載されています)
 こうした作業と並行して平川先生とも相談し、他にもいくらか問い合わせてみた結果、C家の現在乾いていない襖は緊急の処置を要するが現地や近隣での処置は難しいと判断しました。襖の本紙だけを京都に移送して洗浄乾燥処置をした後に返送して、建物修復の際に貼り込んでもらうことにしました。屏風に関しては画面側が既に乾燥しており、剥落止め処置やさらなる洗浄処置が必要ではありますが、襖に比べると緊急性が低いと判断し、移送は次の機会としました。

■5月8日

●C家文化財レスキュー

墨書を襖から切り取る
(撮影:芳賀満)

 東北大学の芳賀満氏が同道し、仙台からバンで大船渡市へ向かいました。作業に必要な養生紙は東京のNPO文化財保存支援機構から提供され八木三香氏に現地に届けてもらいました。本日も現地で金野氏がお手伝いくださり、午後から襖を取り外す作業を行いました。襖自体は鴨居が落ちており、取り外せませんでしたので、本紙部分を切り取って浮けから外すことにしました。8枚全てを取り外し大きく巻いて梱包して輸送業者を使って京都へ発送しました。(翌日、京都で受け取り、処置を開始するまでカビ等が発生しないように低温保存で保管しています。)

 今回一番驚いたのは、塩水をかぶった紙資料は乾きにくいと言うことです。既に震災から2ヶ月が経っていますが、未だに緊急処置の対象のものが存在するということです。塩水をかぶったことによってカビは生えにくいと言われていますが、実際にはひどいものもそれなりにあります。

 宮城ネットの方々も被災者でありながらの活動で、人的にも時間的にも余裕がないように思います。既に山形の東北芸術工科大学での処置などは行われていますが、今後も続く事は確実ですから、もっと各地に分散しての処置協力が欠かせません。今回のS家、C家資料は関西へ移送しての処置の手始めとなりました。

 文化財レスキュー事業は被災文化財を安全な場所(余震等でさらなる被害を受けない、盗難等の被害に遭わない)に移動保管する事業です。処置も基本的には移動、保管するために必要なものに限られます。その後の処置や修理はどちらかというと復興事業に属すとされますが、その方法や費用等については具体的には何も決まっていません。過去の復興事業でもそういった修復が行われた例はかなり稀で、特に未指定品の書画ではあまり聞きません。今後はそういった事業について考えていくことも必要であると感じます。この先の予定が決まらないとここで行う応急処置もどこまでにするかも決めにくいという問題があります。

(追記)
 岩手県大船渡市の水損資料レスキューのレポートです。大林さんは仙台から往復8時間かかる現地まで二往復され、水損資料の現地での応急処置と搬出をお願いしました。あわせて、5月7・8日に実施された応急処置作業でもご指導いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。(事務局・佐藤大介)