139号 仙台市史編さん室の被災歴史資料レスキュー

救う―救済活動東日本大震災

■仙台市域での被災歴史資料調査

 宮城資料ネット会員の栗原伸一郎です。先日お伝えしましたように、現在、仙台市博物館では、宮城資料ネットと連携しながら歴史資料の保全活動に取り組んでいます。仙台市内の各地域(城下町周辺部の旧村地域)を巡回し、これまでの調査先と未調査ながら資料所蔵が予想される旧家を訪問して、歴史資料の被災状況を調査し、保管を呼びかけています(調査方法や当初の活動については宮城資料ネットニュース121号をご覧下さい)。4月20日から活動を始め、7月14日までに延べ30日間で244箇所の旧家や寺社を訪問しました。ここでは、最近2ヶ月の活動状況についてご報告いたします。

 最近の巡回調査は、これまで仙台市博物館で調査をしていない旧家を中心に訪問しています。活動には、博物館職員や『仙台市史』執筆担当者のほかに、宮城資料ネット事務局などが参加しました。宮城資料ネット事務局には仙台市内の被災資料についての問い合わせも数多く入っているため、博物館と情報を共有し、連携しながら調査をしています。また、訪問場所の選定のために、地域の歴史を調査されている地元の方に旧家や資料所蔵者に関する情報を提供いただくなど、市民の方々にも協力いただきながら活動しました。

 5月中旬以降は、仙台市内各地域2巡目の巡回でした。震災の影響によって歴史資料を廃棄した事例が幾つも確認された一方で、古文書など何らかの歴史資料を所蔵していることが確認できたお宅は、訪問したうちの半数近くに上りました。そのなかには、個別に詳細な調査をお願いしたいお宅が数多くあります。また、最初に訪問した際には歴史資料の存在が確認できなかったものの、再訪問した際に確認できたという事例も複数ありました。資料の保管を呼びかけたところ、その後に見つかったものを廃棄せずに残して下さったということでした。今までは、なるべく多くのお宅に資料の保管を呼びかけることを主眼としていたため、ほとんどのお宅は聞き取り調査を一度行ったのみですが、今後は詳細な資料調査や、再訪問による再度の聞き取り調査も行っていたきいと思います。

 なお、沿岸部では、津波の被害を受けた旧家や寺から水損した文書資料が発見されることもありました。これらは博物館でお預かりし、エタノール噴霧などの応急処置をした後に、一部の資料については文化財レスキュー事業に引き継ぎました。水損資料については、後述の倉橋報告をご覧下さい。

 また、巡回調査とは別に、これまで資料調査をしてきた資料所蔵者に対して、歴史資料の保管を呼びかける文書を送付しました。これは仙台市内のみならず、宮城県全域、そして福島県や岩手県にお住まいの方に対して送っています。仙台市外については、なかなか仙台市博物館で対応することが難しい場合が想定されましたので、呼びかけの文書では、心配事のある方は博物館のほかに、宮城資料ネット・ふくしま史料ネットに連絡するようお願いしました。文書をお送りした方のなかには、所蔵する美術品や古文書の今後の保管について相談される方や、廃棄を思いとどまっていただいた方もいらっしゃいました。
 
 その他、仙台市博物館の活動としては、仙台平野の地震と津波災害の歴史や東日本大震災における資料レスキュー活動について、8月28日までパネル展を開催しています。この展示については、幸い多くの市民の方が興味を持って下さったようで、様々な問い合わせをいただいています。巡回調査や文書送付、そしてパネル展示による呼びかけを通して、一人でも多くの方が、自分の周囲にある歴史資料の価値を再認識していただき、今後の保管について考えていただければと思っています。


■仙台市史編さん室での津波水損資料レスキュー

 同じく会員の倉橋真紀です。栗原報告にあります活動を一緒に行っております。 仙台市史編さん室員としての業務では資料整理を担当しており、近年、災害時の資料保存について具体的な事例が紹介される中で、仙台市内で何らかの災害により歴史資料が被災した場合は自分がその任に関わることになるだろうと意識しておりました。
 
 関連する報告書や論文を確認したり、水損資料保全のワークショップへ参加するなどして情報は得ていたつもりでしたが、泥が付着し、海水により完全に浸水したり、圧着したりしている資料をいざ目の前にすると、この方法でいいのか、いずれのマニュアルに従えばいいのか迷いながら作業をする日々となりました。
 
 幸い仙台市博物館の建物は震災当初より空調や水などが止まることもなく、保全活動を行う環境としては恵まれていたと思いますが、資料の分量が多くなりますと「人員と場所」という制限が掛かり、最初に分量が増えた時には私一人では対応しきれず、文化庁の文化財レスキュー事業へ協力をお願いすることとなってしまいました。
 
 津波による被災という報告されたことのない事例ということもあって、最初はなかなか私が必要とする情報を得られませんでした。しかし、全国的な支援が広がる中で文化財レスキュー事業への相談が可能となり、専門の方にご指導いただくことができたり、東京文化財研究所や東京文書救援隊などのボランティアグループの運営するホームページに具体的な事例と共に情報がアップされるようになったりして、今ではある程度の自信を持って作業を行なえるようになりました。
 
 仙台市内の水損資料の受け入れは現在のところ相談件数も落ち着いて来ておりますが、調査は継続されており資料保全の活動はまだ途上です。今回の災害を受け、資料の大量被災をどう処置するのかを検討し、常に最新の資料保全技術を紹介しようとして下さっている方々に感謝しつつ、その技術を学びながら今後に備えたいと思います。