140号 大正建築の保全-塩竈市・仙台市

救う―救済活動東日本大震災

 宮城資料ネット事務局の佐藤大介です。事務局発のメールニュースはしばらくぶりです。この間、週3回程度のペースで現地でのレスキューを行っておりました。今回は建築班の活動として7月1日・2日に実施した大正建築の保全活動の報告です。

■市民が守る住宅建築-塩竈市

 7月1日は塩竈市の「海商の館・亀井邸」の被災調査を実施しました。同邸は、塩竈を拠点に創業した総合商社の社長宅として、1924年(大正13)に竣工した住宅です。和風の主屋と、木造モルタルで石造風の建物を再現した洋館の離れとが折衷された建物は、内部の装飾にも様々な工夫が凝らされた、まさに当時の職人の技術を伝えるものです。この建物は2009年より一般公開され、観光や地域の文化交流施設として活用されてきました。


 この建物は、今回の震災により洋館外壁の漆喰や内部の土壁が崩落するなど、27ヶ所の損傷を受けました。被災調査では基本構造に損傷はみられないという結論になりましたが、伝統的工法での復元を検討するため、同邸を運営しているNPO法人みなとしほがまの依頼により、宮城資料ネット建築班による被災調査を行うことになりました。建築班責任者の佐藤敏宏さんと、同氏が京都から招聘した一級建築士の森田一弥さん(森田一弥建築設計事務所)の二名での調査となりました。森田さんは技術者として京都の金閣寺や大徳寺などの修覆に関わった経験のある、漆喰建築の専門家です。(右絵:車座会議の様子)

 1日日中に行われた建築班による調査では、建物の破損は震災が原因ではなく、今回のような建物には典型的に見られる経年劣化が、震災によって現れたもの、ということでした。同日夜には今後の方向性について会議がもたれ、事務局から佐藤も出席しました。会議は市民自らこの自体に何とか対応していこうという、前向きで熱気にあふれたものでした。この建物が多くの人々によって支えられているということを知ることができました。建築班として、このような動きを引き続きサポートする方向で対応することにしております。

 森田さんからは、「京都などの有名な建物と比べて価値判断するのではなく、自分たちの守ろうとしているものにもっと自信を持ってほしい」という話も事務局にありました。古建築も含め、東北の歴史遺産を守ろうとするものにとって、心すべきことのように思われました。

■消えゆく店舗建築-仙台市

 7月2日は、仙台の旧市街地にある店舗建築の調査を行いました。1915年(大正4)に建てられた店舗は、数年前の閉店時まで現役で使われていました。今回の震災で全体が南側に傾き、柱の木組みが外れかかるなどの被害を受け、所有者の方が解体を決断されました。宮城資料ネット事務局に同家の民俗資料調査にあたった会員の野村一史さんから連絡がありましたので、所有者の方の許可を得て、解体前に各部の寸法を測定し、建物の平面と二階部分の立面について野帳(やちょう)を作成することにしました。

 調査は4名で行いました。私も含む3名は建築測量などの経験はありませんでしたが、佐藤敏宏さんの指導で測量と野帳作成にあたりました。フリーハンドで直線を引く難しさもありましたが、今後の図面化に向けた基礎的なデータを集めることができました。


 所有者の方からは、地震があるたびいつ崩れるか心配で仕方なかった。やっと解体できてホッとしている、とのお話がありました。所有者の方が、思い入れのある建物を残そうと懸命に努力をされてこられたことは明記しておきたいと思いますが、やはり個人の力だけで古建築を維持していくのは限界がある、ということを改めて認識しました。(右絵:野帳作成)

 今回の震災で、多くの古建築が被災し、私たちを含め様々な保全活動が行われています。一方、仮に費用面などの問題がクリアされ、建物を修覆することができたとしても、その本来の機能は、現代社会においてはすでに他の施設などに取って代わられているものが大半です。

 古建築の新たな機能や価値を再発見し、さらにはその保全に責任をもって関わろうとする人々の継続的なサポートの有無が、その先の運命を左右するということを知った二日間でした。