145号 東日本大震災 事務局における水損資料保全活動

救う―救済活動東日本大震災

 宮城資料ネット事務局の天野真志です。4月以降、各地で確認された津波被災資料が事務局に搬入されてきております。海水に浸かった資料を保全するため、現在事務局では資料のクリーニング作業を実施しております。今回、こうした活動について紹介させていただきたいと思います。

■水損資料の状況

 今回の震災は、甚大な津波被害を受けたことで、多くの資料が水損しました。現在、事務局には多くの被災資料が一時保管されていますが、ほとんどの資料が水損資料です。塩水に浸かった資料はカビが生えにくいという見解もありますが、時間の経過や気温の上昇という要因もあり、これまで確認された資料の多くはカビが繁殖しております。そのため、早急に保全措置をとる必要があります。
 4月以降、全国からお申し出をいただいたボランティアの方々と、水損資料のクリーニング作業を実施しております。


■東京文書救援隊からの技術支援

 7月15日、被災した紙媒体資料を救済するために組織された東京文書救援隊から、被災資料洗浄に関する技術指導を受けました。
 「東文救システム」と呼ばれる洗浄作業は、(右絵:資料洗浄のレクチャーー2011年7月15日)

①水の上に発泡スチロール製のボードを浮かせ、その上に網に挟んだ資料を乗せて洗浄

②吸水タオルで吸水した後、不織布に挟んだ資料を濾紙にのせ、段ボールに挟んで乾燥させる


という工程でおこなわれます。一連の作業過程では、資料が網や不織布に挟まれているため、直接資料に触れることがないという特徴があります。そのため、水に濡れて破れやすくなっている資料を扱うには非常に安全で効率的とのことでした。また、不織布や濾紙など、ほとんどの材料が再利用することができるということで、経済的な負担の軽減も期待されるものと思います。(右絵:資料乾燥のレクチャー 2011年7月15日)


 今回技術支援を受けた「東文救システム」は、洗浄から乾燥にいたる一連の工程を、一つのシステムとして確立した点に特徴があると思います。これまで宮城資料ネットで実施してきた洗浄作業は、洗浄や乾燥など、それぞれの工程で問題に直面することで、いくつかの方法を考案してきました。資料洗浄の工程では、水に浸けた資料を保護する必要から、ボランティアの方と協議し、網戸の網を利用した洗浄をおこなっていました。また、吸水については神戸の歴史資料ネットワークから、セームタオルと呼ばれる、競泳選手が体を拭くために使用する吸水タオルをご紹介いただきました。このように、個別の知識や技術については、それぞれの必要性に応じて身近な道具を利用した作業方法を模索して対処しておりました。今回、東京文書救援隊の方々によってご紹介いただいた技術は、それらの行程を一連の作業として効率化することのできるシステムであると思います。また、乾燥方法についても、これまでの乾燥工程で問題となっていた時間効率やスペースの問題を解消することができます。さらに、発泡スチロールを使用した洗浄工程も、水中に泳がせて洗浄していたこれまでの作業にくらべ、資料を破壊する危険性を軽減するものとして画期的なものと思います。(右絵:東文救システムでの資料洗浄ー2011年8月1日)

 震災から5ヶ月が経過し、被災した地域や確認されるまでの時間の経過などに応じて、様々な状態の水損資料が確認されております。また、多種多様な紙の性質や形態、墨書かインク書かの違いなど、被災した資料は必ずしも一様ではありません。こうした資料の状態や性質に応じた速やかな保全措置を講じていく必要があります。東京文書救援隊からのアドバイスはもちろん、これまでも真空凍結乾燥やスクウェルチ法と呼ばれる方法など、多くの方から様々な処置方法をご紹介いただき、協力のお申し出をいただきました。宮城資料ネットでは、実際にそれぞれの方法を実施し、資料の性質や状態に応じた、より効率的な作業方法を選択していきたいと思います。

奈良国立文化財研究所や東北芸術工科大学では、現在も真空凍結乾燥法による作業を実施していただいております。また、山形文化遺産防災ネットワークからは、水損資料のクリーニングに関して協力のお申し出をいただきました。さらに、全国各地からボランティアのお申し出をいただき、毎日のように多くの方々が事務局で洗浄作業を実施していただいております。活動にご協力いただいた皆様に、この場を借りてあつく御礼申し上げるとともに、今後ともご支援・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。