146号 東日本大震災 文書クリーニングに参加して

救う―救済活動東日本大震災

野村育世   (高等学校・中学校教諭/日本中世史・女性史研究者)

まるで、かき氷にかけるイチゴとレモンのシロップみたいなシミが、今でも目に焼き付いています。
私は、8月8日と9日の2日間、仙台の東北大学川内キャンパス内にある事務局で、ボランティアに参加しました。


8日の朝、まだ夏休みになっていないらしい学生たちで混雑するバスに乗って、事務局があると聞く東北アジア研究センターを目指して行ったのですが、柵がめぐらしてあって、建物は見えるのにいつまでたっても行き着けません。なんと、ここも被災して現在は使われておらず、事務局は研究棟のてっぺんの、大変見晴らしのよい広い会議室にあったのでした。ちゃんと調べないで行ってしまったのですね。

ここには、東北の各地域から被災した資料が運び込まれています。私が担当した仕事は、津波に浸かった文書の泥を落とし、エタノールを噴霧してカビを殺菌するクリーニングの仕事でした。私が手掛けたのは現代の文書で、古いものでも今から50年ほど前のものでしたが、丈夫な和紙と異なり、かえって扱いにくいものでした。

5か月経った今でもまだ少し湿っていて、くっついた薄い紙をはがすのが一苦労です。一般的に海水に浸かるとカビは生えにくいそうなのですが、長らく放置されていたので、ところどころにカビが生えています。そのカビが、どういうわけか妙にきれいで、ピンクとイエローの水玉がぽつんぽつんと散ったようになっているのです。

はがした紙にエタノールを噴霧すると、たちまち紙はびしょ濡れになって透き通ってきます。これで、カビの根は絶たれたわけで、作業は基本的にそれで終わり。後は乾くのを待つばかりです。


こうした仕事を、黙々と9時から5時まで集中して行ないます。作業そのものは全く苦にならず、かなり集中してやっているのですが、あっという間に一日は終わり、仕上がった分量はほんのわずかです。それでも、一日働けば充実感があり、美味しい海鮮料理を味わい、満足してホテルに戻りました。

ところが、その夜、何やら怖ろしい夢を見て目が覚めてしまいました。こういうことは滅多にないので、よほど神経が緊張し、疲労していたのだと思います。やはり、頭で考えるよりも大変な仕事なのでした。

事務局の皆さんは、ご自身の業務をこなしながら、飛び込んできたマスコミの取材に答え、アルバイトやボランティアに指示を出し、指導し、作業時間・休み時間を管理するなどとても忙しく、そして少しでも時間があれば作業場所にやってきて、文書クリーニングの仕事を進められていました。とても大変なお仕事だと思います。そして、忙しい中、休み時間にスイカを出してくれるなど、親切にいろいろ配慮してくださって、おかげ様で、とても気持ちよい雰囲気の中で、作業をすることができました。

ボランティアでご一緒した方々は、仙台市民のとても元気な女性たちが多く、市内の美味しいところを教えてくださったり、仙台市民や被災地の方々の今のお気持ちをさりげなく話してくださって、お話できてとても楽しく、有意義でした。また、高速バスでボランティアに通ってくる院生など、若い真摯なまなざしに触れて、刺激を受けることができました。

また機会があれば、皆様とご一緒したいと思います。2日間、本当にお世話になり、ありがとうございました。