153号 物品資料の保全活動 ―レコード・着物のレスキュー活動について

救う―救済活動東日本大震災

 宮城資料ネット事務局の蝦名裕一です。

 宮城資料ネットでは主に古文書を中心として保全活動を実施していますが、レスキューの現場で接するのは古文書に限りません。特に東日本大震災の発生以降は、昔の生活用品や衣類などの物品資料に出会うことが多々あります。これらの物品資料については、専門家や専門機関と連携し、これらの資料が後世に残るように対応しています。今回は、こうした古文書以外の歴史資料のレスキュー活動について紹介します。


■SPレコードのレスキュー活動
 6月上旬、東日本大震災で被災した大船渡市の所蔵者からレスキューの依頼があり、一関市博物館と芦東山記念館に勤める宮城資料ネット会員の方々がレスキューに赴きました。レスキュー活動では楽焼きの陶器や下張り文書のある屏風、さらに戦前のSPレコードが大量に発見されました。しかし、所蔵者宅は津波によって破壊され、これらのレコードを保管・維持していくことは極めて困難でした。現場から電話で連絡をうけた事務局では、津波で被害をうけた古文書や屏風の措置を実施するとともに、これらの被災レコード群を引き取っている機関を探しました。(右絵:写真提供・芦東山記念館)


 東京都千代田区にある昭和館では、昭和10~30年代、主に戦中・戦後の生活に関する資料を展示しており、生活用品などの実物資料のほか、図書・雑誌資料、映像・音響資料を収蔵しています。事務局から昭和館の図書情報課に連絡し、被災レコード群について引き取りを打診したところ、即座に了解をいただきました。
 今回レスキューされた被災レコードは全部で207枚あり、被災地から直接昭和館に送られました。昭和館ではこれらのレコードを水洗いして津波の汚れを落とすなどの洗浄処置をおこないました。結果、これらの被災資料は破損していた1枚を除き、全て再生が可能だったとのことです。現在、昭和館ではこれらのレコードを被災レコードとして保管し、音源をデジタル録音して公開する作業をおこなっているとのことです。(右絵:写真提供・昭和館)

■着物のレスキュー活動

 7月上旬に資料レスキューを実施した亘理町の旧家では、古文書・文書類の他に、土蔵の2階に多数の着物が残されておりました。同家では自宅や土蔵の1階が完全に浸水する被害をうけており、取り壊さざるを得ない状態となっていました。所蔵者から、これらの着物類についても、引取先がないようであれば土蔵とともに処分することもやむをえない、とのお話を聞きました。

 資料レスキューの傍ら、これらの着物を何とかできないか、と話し合っていたところ、レスキューに参加された着物に詳しいボランティアの方から、古い着物を引き取ってリサイクルしている団体の心あたりを教えていただきました。その中で我々がコンタクトをとったのが、日本の伝統的な着物文化を再評価し、着物を着易い環境づくりを目指して京都を中心に活動している「NPO法人きものを着る習慣をつくる協議会」でした。同法人では東日本大震災の発生以降、被災者にゆかたを支援するなどの活動に取り組んでいます。

 同法人の理事長に亘理町の着物の引き取りについてお願いをしたところ、早速のご快諾をいただきました。8月9日、同法人の岩手事務局の方々と宮城資料ネットの合同で、これらの着物のレスキュー活動を実施しました。
 今回レスキューした着物類は、それぞれの特徴から大正時代から昭和前期のものと考えられました。女性用の着物は染・織の訪問着や普段着、男性用の着物は正装である黒紋付の羽織や仙台平の男袴がありました。仙台平は、江戸時代中期に仙台藩主が京都の職人を招いて織物を織らせたことが起源となり、その後、幕府や皇室への贈答品として珍重され、武士達に愛好されていたものだそうです。


 特に目を引いたのはこども用の着物です。男の子の着物は力強く育つようにと願いを込められた鯉柄に、こどもを災厄から守る意味をもつ紐飾りの刺繍がほどこされていました。また、女の子の着物には、当時の世相を反映して「ヰモンブクロ(慰問袋)」をもつ女の子が柄として描かれているものもみられました。(右絵2点:写真提供:「NPO法人きものを着る習慣をつくる協議会」岩手事務局)

 これらの着物は、仙台箪笥などの中に丁寧に折りたたまれており、日焼けや虫損、カビなどの被害もほぼみられず、状態が極めて良好でした。所蔵者からお話を聞くと、先代の奥様が定期的に防虫剤を入れるなど、こまめに管理をされていたそうです。また、着物とともに大量の端布もみつかりました。着物や帯を仕立てる際にでる端布を、着物の補修や繕い物に使用するために保管していたのでしょう。こうしたきめ細やかに手入れされた着物たちから、同家の女性たちがこどもの健やかな成長を願う気持ち、家族に対して抱いている愛情が、時を越えて伝わってくるような思いがしました。

 「NPO法人きものを着る習慣をつくる協議会」では、これら被災地からレスキューされた着物を用いて、下記の日程で展示活動をおこなうとのことです。

○滋賀県草津市   エルティガーデンシティー2階(滋賀県草津市大路1-1-1)
 10月25日(火)~28日(木)

○東京都八王子市  八王子織物組合1階(東京都八王子市八幡町11-2)
 11月3日(木)~5日(土)
 
 このほか、山形や岩手などでも展示会を実施する予定とのことです。皆様がお住まいの地域で開催された際には、是非足を運んでいただければと思っています。

 今回レスキューしたレコードや着物をはじめとした物品資料群。多くの人々の思いが込められ、受け継がれてきた品々は、それ自体が大事な歴史資料です。今、被災地から消えようとしている歴史資料たちを、より多くの人達と連携することで、ひとつでも多く後世に残していきたいと考えています。

<今回ご協力いただいた団体のサイト>
・昭和館HP http://www.showakan.go.jp/
・「NPO法人きものを着る習慣をつくる協議会」HP http://npo-kimono.jp/
・きもの支援センター活動報告「きもの支援センター日記」 http://sanrikusomeru.seesaa.net/