160号 水損資料の保全作業に参加して

救う―救済活動東日本大震災

一橋大学  渡辺尚志

 2月24日に、若尾政希さんや私のゼミ生を中心とする一橋大学のメンバーとともに、宮城資料ネットの行なう被災資料保全作業に参加しました。


 私は、その直前の2月22~23日に、東北学院大学の斎藤善之さんの案内で、岩手県大船渡市から宮城県石巻市にかけての被災地域をまわりました。伺ったなかには、津波によって、大量の文書を蔵もろとも流されてしまったお宅もありました。それでも、斎藤さんたちの調査グループがすべての文書をデジタル撮影していたおかげで、かけがえのない文書のデータだけは残りました。所蔵者の方や地元自治体の方が、そのことをたいへん喜んでおられるのを見て、日頃からの資料の所在調査・整理・写真撮影の重要さを再確認しました。こうした地道な作業の積み重ねが、資料を未来へと伝えることになるのだと実感しました。

 24日の保全作業は、東北大学川内キャンパス文化系総合研究棟11階の見晴らしのよいロビーで行ないました。作業内容は、水損資料のクリーニングです。ダンボールの台の上で、竹べらや刷毛を使って資料についた泥を落とし、カビが発生している箇所にはエタノールを噴霧します。紙同士がくっついて剥がれなくなっている場合は、霧吹きで水をかけてから、竹べらで慎重に剥がします。それでも剥がれない場合は、無理をせず、後日の処置に委ねます。これらは保全作業の第1段階に当たり、そのあとに水洗いや乾燥等のさらなる作業が控えているということでした。

 午前中は比較的水損の程度が軽い資料を扱ったため、カビと、それ以外の原因による変色との判別に迷う程度で、比較的スムーズに作業を進めることができました。ところが、午後担当したのは、大量の一枚物の紙が重ねて筒状に丸められ、それが海水と泥の付着によって剥がれなくなってしまった資料でした。それを竹べらと霧吹きを使って剥がしたのですが、薄い和紙が相互にピッタリくっついてなかなか剥がれず、作業にたいへんな時間と注意力を要しました。また、剥がす過程では、一部紙を破ってしまった箇所もあり、資料を破損することなく修復保全することの難しさと、それに要する時間と労力の多大さを実感しました。


 それでも、天野真志さんたち宮城資料ネットの事務局の皆さんやボランティアの方々に丁寧に教えていただいたこともあって、何とか作業を終えました。スタッフの皆様の懇切なご配慮に、あらためて厚くお礼申し上げます。

 また、平川新さんからは、資料ネットの活動と、資料の分析から見えてくる過去の災害の実態についてのお話を伺いました。災害と復興という視点から資料を読み直すことで、これまで気づかなかった多くの新発見があるということを教えられました。私自身も、そうした視点で村方文書を見直すことを通じて、近世人の災害との向き合い方について、あらためて考えなければならないと痛感しました。

 本当に、多くのことを学び、目に焼き付け、考えさせられた3日間でした。この経験をさらに反芻し、今後微力ながらもできることをやっていきたいと思います。