176号 史料搬出ボランティアを体験して

救う―救済活動東日本大震災

鈴木 伸和(NPO法人映画保存協会)

2012年10月14日(日)、宮城県栗原市S家の土蔵にて、宮城資料ネットによる歴史資料の搬出ボランティアに参加しました。今回、東京から参加したのはいくつか理由があります。私は所属する団体として、被災した動的映像資料(映画フィルムやビデオテープ等)を東京で受け入れ、応急処置等を行ってきましたが、被災地で歴史資料を直接扱う機会はこれまで一度もありませんでした。それは、私たちの活動が未熟で経験が浅いことに加え、動的映像資料が歴史資料と見なされていない場合もあり、被災地域からの依頼や情報提供がそれほど多くないという現状もありました。そのため、もっと積極的にこちらから外へ出て、他団体、他分野と関わる必要性があると感じていたことが主な理由となります。ちょうどその時、宮城資料ネットのメールニュースでこのボランティア募集を知り、応募させていただいたことが、今回参加したきっかけとなりました。

当日は朝8時半に仙台駅に集合し、そのまま現地へ車で向かいました。宮城資料ネットの方を含め14名とのことで比較的多い印象でした。その後、搬出した資料の一時保管を行う施設に立ち寄り、そこで栗原市教育委員会の文化財担当者と合流し、現場へ向かいました。搬出予定の土蔵は、外壁に亀裂と剥離があり、入り口の柱も一部地面から浮いている状態で、傾いていることが伺い知れます。


今回の作業の流れは、土蔵内にある歴史資料(今回は主に紙資料と民具等で、全ての物を持ち出す訳ではない)を土蔵の前庭に一時搬出し、そこで害虫予防のため簡単に埃を払った後、紙資料と物資料とに分別して段ボールに詰め、一時保管所へ車で搬送する、というものです。どの資料を持ち出すのかは、所有者の確認を取った後に、宮城資料ネットに所属している歴史学の専門家が判断をします。私が行った搬出補助は特に難しい作業ではなく、宮城資料ネットの方々の慣れた作業の邪魔にならないことだけを念頭に行いました。作業としては「引っ越し」と似た感覚ですので、補助をするだけであれば誰でも出来ると思います。当日は快晴で無風だったことも幸いし、作業はとてもスムーズに進み、絵:民具の搬出(撮影・宮城資料ネット事務局)

予定よりも早く終えることができました。このように当日の作業のみを簡潔に書くと、歴史資料の救済が簡単であるかのように思われるかもしれませんが、しかし実際は、大学、非営利団体、自治体それぞれが的確に連携し、かつ長年の実績があるからこそスムーズに作業ができる訳で、仮に何かが欠けていたとすれば、所有者との信頼関係をすぐに築くことができず、歴史資料を「引っ越し」のようにスムーズに搬出できないまま土蔵が解体されてしまった可能性もある、ということは伝えておく必要があるように思います。

宮城資料ネットの代表でもあり、東北大学の教授でもある平川新先生によれば、自治体職員が調査に同行していると歴史資料所有者の方も安心されるとのことでした。文化財レスキューに関わる人であれば、誰でもこの点に強く頷かれることだろうと思います。また私が一番驚いたことは、宮城資料ネットは長年の活動により、県内の多くの自治体とつながりを持っているという平川先生の謙虚な、かつ自信を持った言葉でした。歴史資料というと発見や修復が大きくニュースになることもありますが、そういったニュースの裏にはこうした長年の地道な活動があるということを、絶対に忘れてはいけないように教わった気がします。

せっかくの機会ですので、私の雑感も記したいと思います。ボランティアの前日に仙台市博物館へ行き、宮城資料ネットの方々によって発見された司馬江漢の衝立や、津波で流された後に奇跡的に見つかり、修復された伊達政宗の書状を見てきました。仙台市博物館は、国宝の慶長遣欧使節関係資料も展示されているのですが、来館された方々にとっては被災された書状の方に関心があるのか、国宝よりも伊達政宗の書状の方が多くの人に見られていて印象的でした。


私自身は動的映像資料を専門に扱っているため、近代化以降の歴史資料に興味があり、近・現代の区画に展示されていた、昭和初期の電車音やバスガイドの音声案内を何度か聴くことができました。その他、たくさんの写真や紙資料はもちろんあるのですが、100万人都市である仙台の近現代史を展示する区画であっても、残念ながら映像の展示は1点もありませんでした。そのこと自体は特に珍しいことではなく、全国のM(美術館・博物館)L(図書館)A(公文書館)でも、歴史資料の一つとして動的映像資料が保存されることは少ないですが、しかし、その事実を目の当たりにすることで、私(たち)の仕事の意義を感じることもできます。

今回体験させていただいた宮城資料ネットの活動を参考にさせていただきながら、今後、動的映像資料が社会で忘れ去られることがないよう、これからも地道な活動を続けていくことが重要であると感じています。 絵:搬出した資料の仕分け(撮影・同前)

最後に、貴重な機会を提供していただいた宮城資料ネットの方々と、当日、お昼ご飯まで用意してくださった土蔵所有者のご家族に、改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

(編集・佐藤追記)

*NPO法人映画保存協会 公式サイト http://www.filmpres.org/