249号 「カメラスライダー」を活用したいわゆる「横長帳」撮影の新手法
2015.10.18
1 「横長帳」の撮影
宮城資料ネットでは、これまで100件を超える個人所蔵者方で、100万ファイルを超える、古文書史料のデジタル撮影を行ってきました。
冊子、一枚の紙、継ぎ合わせた紙・・、さまざまな形の古文書の中でに「横長帳」と呼ばれる形態の文書があります。横長の、右短辺綴じの帳簿です。宮城県ほか仙台藩領では、江戸時代の村のさまざまな税金に関する文書や、藩からの通達などを書き留めた「御用留」(ごよう・どめ)、さらには商家などでは、江戸時代から、洋式の会計帳簿が普及する昭和の初めに至るまで、経営に関わるお金の出入りを記録する帳簿として用いられました。これららは、地域の歴史を知る手がかりとなる基本的な記録で、全国的にも、同じような用途で使われた「横長帳」が多数残っています。
これらの帳簿は、時にその厚さが10センチ前後にも及ぶ場合があります。私自身の経験では、1冊の帳簿を撮影するのに、3時間かかったこともあります。1冊の帳簿は数百コマの写真になるのですが、それでも、全体では「1000点の文書のなかの『1点』の撮影が終った」に過ぎません。宮城資料ネットでは、帳簿の見開きを片側ずつ撮影しているため(見開きで撮影すると、資料の写真が小さくなり、文字が小さくなってしまう・細かな文字が読めなくなる恐れがある)、「横長帳」のページ(丁)をめくる度に、史料本体を左右に動かさなければならないからです。限られた調査時間の中で、「横長帳」の撮影時間をどのように短縮するかが大きな課題でした。
宮城資料ネットが公開しているマニュアルでは、「デジタルカメラを二台用いて、左頁・右頁を別々に撮影し、最後にパソコン上で並べ替える」方法をとってきました。これは、史料自体は動かさず、見開きのままで左右を撮影することで、時間の短縮にはつながります。しかし、カメラが2台必要なこと、カメラの設定やファイルの並べ替えが煩雑で、これらの操作を苦にしない人でないと難しいという課題が残っていました。
2 「水戸会議」―茨城大学での撮影講座にて
その中で、今年7 月1日、茨城史料ネットでの撮影講座に講師として招かれました。参加者は、佐藤と、撮影スタッフの伊東幸恵さん、後藤三夫さん、黒田昌弘さんの4名。講座が始まる前の昼食の時間、控え室として用意された、茨城大学の研究室で、「横長帳」の撮影の話題が始まりました。ちょうど、仙台で横長帳を多く含む史料を撮影していたところで、上述した欠点について話題になったのです。撮影するカメラ自体を左右に移動できれば時間を短縮できるが、そのためには道具を特注するしかないのか・・・。すると、黒田さんから、「市販品でカメラを雲台に固定したまま、横にスライドさせる道具があるはずだ」との発言。早速手元のスマートホンで様々にキーワード検索を掛け、その道具―カメラスライダーを見つけました。
カメラスライダーの本来の用途は、映像の移動撮影です。映画の撮影で、レールの上にカメラを乗せ、被写体となる俳優さんなどの動きに合わせて撮影している風景をご覧になったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。あれが、移動撮影です。近年、デジタルハイビジョンカメラの普及と小型化により、大きな映画フィルムカメラを動かすためのレールもカメラスライダーへと小型化し、一般の撮影者でも入手して使用できるようになっていたのです。
3 カメラスライダーを入手せよ-水戸から東京、そして仙台へ
「すぐに買いに行くべし」。1日の夜、伊東さんからの号令を受け、黒田さん、そして後藤さんの二人は、翌7月2日早朝に水戸を発ち、東京都は新宿駅西口の、某家電量販店のカメラ売り場に急行しました。
後藤さん、黒田さんは、本来の用途と異なり、カメラスライダーを天地逆に用いるので、スライド部分がカメラの重みで落下しないかを、店頭で現物合わせしながら確認しました。コンパクトカメラ程度の重さなら、逆さまに設置しても問題ないとわかり、早速、最も安い価格の1台を購入し、仙台に持参しました。
その後、試験的に撮影を進め、8月からは本格的な運用を開始しています。長年の課題だった横長帳への対応が、大きく前進しました。
4 カメラスライダーを用いた「横長帳」の撮影方法
撮影方法ですが、次の通りです。
①カメラスライダーを、三脚の雲台部分に、天地逆に取り付ける。
②カメラスライダーにも雲台を取り付け、そこにカメラを取り付ける(雲台も別途購入する)。
③横長帳を、表紙→右丁→左丁の順に、カメラをスライドして撮影する。左右の写り方が同じになるよう、液晶画面を見て確認しながらカメラを動かす。
設置時に多少時間がかかりますが、これまでとは比べものにならない速さで、一冊の帳簿が撮影出来るようになりました。カメラ一台ですから、ファイルの並べ替えも不要です。一連の工程については、近日中にマニュアルの方にも公開したいと思います。
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宮城資料ネットでは、効率的で、一般市民でも参加出来る形での撮影方法について、日々の保全活動を通じて、引き続き考案していきます。