70号 2009年6~7月実施の資料保全事業について
2009.07.31
宮城資料ネットでは、被災地などで行政や地元の方と協同して実施する大規模な調査のほか、事務局に個別に寄せられた調査依頼について、事務局及び日常のデータ整理をお手伝いいただいている大学院生が参加して実施しております。その様子については、このニュースでも何度かお伝えしてきましたが、最近は立て続けに調査依頼が入る状況で、活動報告が滞っておりました。そこで、2009年6月と7月に実施された事業を、まとめて御報告いたします。
■各地での資料保全活動
◇登米市・S家資料保全活動
S家は、江戸時代の後期には村の肝入を勤め、近代初頭には牧畜業の振興に尽力するなどした地域の有力者です。同家の資料については、以前に自治体史や資料保存機関による調査が行われておりましたが、御当主からの御依頼を受け、去る6月22日に事務局2名と会員1名の3名で、同家の土蔵2棟の再調査を実施しました。重なった木箱をかき分け、階段のない土蔵の二階によじ登ったりと、文字通り隅々まで資料を確認したところ、近世から近代初期に掛けての古文書資料数百点と、屏風・ふすまの下張り文書多数が確認されました。
御当主も、「こんなにたくさん資料があったとは」と驚かれるとともに、言い伝えとしてしか知らなかったという、S家の先祖代々の社会活動を証明する手がかりとなる資料が含まれており、大変喜ばれていました。
確認された資料については、御当主のご了解をいただいて、7月15日に仙台の事務局に借用して整理・撮影を進めることになっております。また下張り文書についても、数多くの近世・近代文書が含まれているようですが、こちらも整
理の御許可を得ておりますので、いずれ下張り文書の保存講座もかねた保全活動の機会を設けることが出来ればと考えております。
◇大崎市・S家での資料保全活動
大崎市のS家は、かつて徳川家康が宿泊したという由緒を持つ古刹です。昨年の岩手・宮城内陸地震での保全活動に際して、同家から調査・整理を依頼されておりました。4月22日に予備調査を行ったところ、近世初期から昭和戦前期の文書資料多数が確認されたため、7月25日に資料全点の撮影と中性紙封筒への詰め替えを実施しました。事務局2名と会員2名の4名に、大崎市教育委員会の職員2名の御協力を得ました。資料は300点ほどで、今後S家の「歴史資料写真帳」の編集作業を進める予定です。
◇白石市・S家資料予備調査
白石市のS家は、仙台藩の奉行職(家老)を代々勤めた家の流れをくむお宅です。同家については、白石市教育委員会の文化財担当者の方が、長持一つ分の資料を確認されていました。所蔵者のお宅では、末永く保存し活用されているよう希望されていることで、白石市の担当者の方から事務局に今後の保全について相談があり、7月30日に事務局2名で現状を確認してきました。
資料は、蓋に家紋が記され、大人一人が入ることの出来そうな、堅牢な長持にぎっしり詰め込まれておりました。数千点はあると思われます。その一部を確認したところ、戦国期から昭和初期までの資料が確認されました。
内容の稀少性に加え、今後の保全活動に担当者の方も積極的に対応くださるとのことでしたので、9月19-23日の大型連休中に最初の保全活動を実施する方向で調整しております。詳細につきましては、日程が確定次第、メールニュースにて御連絡差し上げる予定です。御協力の程、どうぞよろしく御願い申し上げます。
■交流・広報活動
◇「罹災文化財の救済処置技術意見交換会」への参加
すでに一ヶ月以上経過してしまいましたが、6月20・21日の両日、東北芸術工科大学文化財保存修復研究センター(以下「芸工大」)・歴史資料ネットワークの共催で実施された標記の会合に、事務局1名と会員1名で参加してきました。
宮城資料ネットに直接関連した報告として、本法人から芸工大に依頼した加美町S家の焼損資料の修復がありました。かなりのダメージであった冊子資料が、十分に解読できるレベルに修復されていたのは、正直なところ、とても驚き、プロの技術のすごさを改めて認識しました。一方で、修復をはじめる場合、および修復過程に際して、文字内容について情報交換をするような機会があれば、より効率的な修復について検討できるとの意見も頂戴しました。修復事業の目的は、まさしくそのような方法論を協同で検討してゆくことにあり、とても有意義な機会となりました。
なお、交流会の各報告・タイトルにについては、歴史資料保全ネットワークブ
ログなどをご参照下さい。
史料ネットブログURL http://blogs.yahoo.co.jp/siryo_net/28824230.html
◇歴史資料保全ネットワーク・ワークショップでの報告
7月27日、神戸市立六甲道勤労市民センターで開催された、歴史資料保全ネットワーク主催のワークショップで、事務局・佐藤より「「宮城方式」での歴史資料保全技術-「千年後に史料を残す」ための第一歩-」というタイトルで報告および実演を行ってきました。宮城資料ネットによるデジタル撮影の技法については、2007年刊行の文化庁委嘱事業報告書などでまとめられておりますが、今回の報告では、岩手・宮城内陸地震での保全活動の経験をふまえてさらに改良を加えた、特に個別の史料群を対象とした「一軒型」保全活動における史料一点ごとのデジタル撮影の技法を、余すところなく披露してまいりました。
参加者からは、デジタルデータの資料保存全体の中での位置づけに関して、また人員・時間・資金が限定される中で蓄積された方法への評価など、様々な意見をいただくことができました。報告内容の詳細については、いずれ公表の機会を持ちたいと考えております。 (佐藤記)