99号 東北・関東大震災 歴史資料・文化財被災状況の概況報告

救う―救済活動東日本大震災

 宮城資料ネットの平川新です。

■東北・関東大震災の被災状況

 ガソリンがないために動けない事務局では、かつての調査先や教育委員会、郷土史家の方々などに電話をして情報を集めるとともに、地震後に撮影された衛星画像から調査先や文化財の所在地を特定して現況を把握する作業を続けています。これまでに約300件近くの情報を集めました。その概要をお知らせいたします。
*沿岸部

 大津波に襲われた沿岸部のうち、宮城県の気仙沼から山元町までの地域で古文書所蔵者のお宅が10軒ほど消滅してしまいました。私たちが以前に調査した旧家なのですが、お屋敷が跡形もなく消えてしまった衛星画像を見ると慄然とします。中にはかろうじて津波から免れたものの、地震によって土蔵が大きく傾いたというお宅もありました。そのお宅の蔵には、近世初頭から戦後までの数万点におよぶ史料が段ボール箱に詰められて収納されています。はたして、それらはどうなっているのか、早くレスキューに駆けつけたいという思いが募ります。
*内陸部

 メディアでは福島原発と大津波の報道が中心となっていますので、内陸部の被害報道が少なくなっています。それでもさすがに、国指定の有備館(宮城県大崎市岩出山町)が完全倒壊したことは報道されました。事務局による電話の聞き取りによると、地域によっては未指定の古民家や土蔵にも、かなりの被害が確認されています。

 2年半前の岩手宮城内陸地震では、震源地となった奥羽山脈側の地域(栗原市栗駒、同花山、大崎市岩出山、同鬼首等)が激しいダメージをうけましたが、今回は大きく揺れたものの建物被害はあまりなかったとのことでした。しかし栗原市や大崎市の西部地域では、近世後期の農家住宅の柱が折れたり、土蔵が倒壊あるいは大きく損壊したとの情報が寄せられています。また登米市の東和町地区は栗原市や大崎市よりは海寄りなのですが、建物被害は少なかったとのことです。ところが同じ登米市でも迫町では民家の被害が多く、さらに南の石巻市桃生町でも土蔵がつぶれた旧家がありました。地盤や立地によって被害の程度に大きな差が出ているようです。

 仙台市内では、足軽の内職から始まった堤焼きの登り窯6基(大正期建造)のうち3基が崩壊してしまいました。未指定ではありますが足軽町としての堤町の歴史を象徴する文化財でした。奥様は、どうすればいいのかと途方にくれておられました。

 仙台城下町としては数少ない商家の店蔵も、壁が剥落しています。仙台の南にある蔵の町村田町では、多くの土蔵に被害がでています。福島方面でも桑折町の旧家が大破したという情報が寄せられています。

■どうすれば歴史遺産を残せるのでしょうか

 調査が進めば進むほど被害物件は増えていくばかりです。修復する費用がないので解体せざるを得ない、と語っておられるご当主の話も、いくつか聞こえてきております。未指定ですが、よく知られた古建築もあります。東北関東大震災は、日本の歴史と景観を体現するあらゆる宝を喪失させようとしています。
 地域の宝、日本の宝を守るために国民や世界から募金を募り、たとえば歴史遺産基金のような、所有者の方々を少しでもサポートできる体制をつくりだせないものでしょうか。よいお知恵がありましたら、ご提案いただければありがたく思います。