1 事業成果の概要

(1)東日本大震災に伴う保全活動 2019年4月~2020年2月

2011年4月に救出した宮城県農業高等学校蔵書類についての専用容器への封入作業を行った。また、2013年6月に岩手県一関市の個人所蔵宅で被災した土蔵から救出した文書史料について、ようやくクリーニングと整理番号の付与に着手し、50箱ほどへの収納を行った。また、2016年度に救出した、宮城県石巻市雄勝町、2018年度に宮城県塩竈市にて救出した、津波で被災したふすま下張り文書の解体及びクリーニング作業を実施し、これらについても保管箱への収納を行った。2019年5月27日に石巻市教育委員会および松島町教育委員会と共同で石巻市・N家資料の概要撮影を行った。
また、2011年4月に救出した、岩手県大船渡市の個人所蔵の歴史資料の一部についてデジタル撮影を実施した。
なお、後述する2019年台風19号での被災資料救出の呼びかけに対して、津波で被災した個人所蔵の古文書への対応について相談が寄せられた。このことは、東日本大震災の被災から9年を経てもなお対応がなされてされていない、個人所蔵を中心とする歴史資料がまだ存在する可能性を示唆している。
今年度は整理の終わった資料3件について所蔵者へ返却を行った。
・2019年6月6日 石巻市・戸倉小学校 ファイルボックス27箱
・2019年7月29日 仙台市・S家資料  ファイルボックス4箱
・2020年1月24日 仙台市・K家資料  ファイルボックス13箱
(軸箱2点については作業中のため未返却)

(2)その他の救済・保全活動

①一軒型保全活動

・2014年3月に宮城県の栗原市教育委員会を介して救出した、個人所蔵の古文書史料の一部について、デジタル撮影を行った。
・2015年度に所蔵者からの依頼で保全した個人所蔵の史料群のうち、ふすま下張り文書の一部を救済・保全した。
・仙台市・S家資料の保全活動
前年度に引き続き、所有者の依頼により、仙台市のS家に所蔵されている旧仙台藩士関係資料および近代の書画、台湾関係資料の保全活動を実施した。概要確認および一部資料の撮影を実施した。デジタル撮影および保管容器の交換による環境改善を実施した。参加者は7名であった。

②古文書資料返却事業

2019年度も現所蔵者への返却は行えなかった。現時点での返却・所蔵者確認の状況は資料1-②の通りである。

③一点目録の作成

ⅰ 事務局担当分
事務局での作業として、以下の文書について手書きでの目録作成を実施した。
・栗原市・N家資料  約1万点(完了)
・東松島市・A家資料 約2000点(完了)
・涌谷町・M家資料  約1000点(継続中、529点作成済)
ⅱ 東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門からの支援
前年度に引き続き、以下の文書の撮影と目録作成がおこなわれた。
・栗原市・N家文書撮影(約42000コマ)
・南三陸町・E家文書目録(440件)

(3)2019年台風19号での被災史料救済・保全活動

2019年10月12日夜から13日にかけて日本列島に上陸した台風19号では、それにともなう大雨と洪水により、東日本一帯に大きな被害をもたらした。宮城資料ネット事務局では、9件約6万点の資料を救出し、以下の活動を行った。

① 被災した自治体の文化財関係者および郷土史関係者からの情報収集
② ソーシャル・ネットワーキング・サービス(Twitter、Facebook)およびメールニュースでの呼びかけ
③ 宮城県内の公刊物から作成していた歴史資料所在一次リストの情報を活用したデジタル文化財マップの作成
④ ①・②の情報に基づく状況確認調査、
⑤ 被災した歴史資料の一次搬出と応急処置・デジタル撮影、
⑥ 他地域の史料ネット関係者・文化財関係者への情報提供

を行った。一連の活動については、被災以前に関係者との交流を持っていた宮城県南部および宮城県涌谷町、宮城県松島町において、被災情報の入手及び救出を進めることが出来た。
宮城県丸森町では災害ボランティアとの連携により、地域の神社での災害復旧と文化財救出を同時に実施するという活動も行った。また、宮城県松島町では、後述する被災地巡見での交流を持ったNPOみなとしほがまと協力して、松島町教育委員会の担当者が救出した水損資料への応急処置を実施した。
なお、新聞・テレビの取材の機会に被災資料救済の呼びかけを行うとともに、活動の実態が報じられた。それによる情報収集もあったが、全体的に災害前に関係者らとのつてを持たない地域については活動に制約があった。

2 歴史資料の所在確認のための事業

2019年台風19号での被害状況調査

上述の通り、2019年台風19号にともなう被災地の状況調査を、10月13日の洪水状況の発生直後から12月にかけて賭けて実施した。実施場所は宮城県大郷町、涌谷町、大崎市(鹿島台)、登米市、松島町、角田市、丸森町、亘理町である。この過程で、災害ゴミの集積場に遺棄されていたふすま下張り文書を、立ち会いの係員の了承を得て、数点搬出している。
なお、台風19号では各自治体における災害ゴミの集積場設置が早々に行われた。その中に歴史資料・文化財としての価値を持つ品が含まれていたことも考えられるが、救出活動を行うことは至難な状況であった。

3 広報支援事業

(1)YS市庭コミュニティ財団助成金事業・東日本大震災被災地巡見

仙台市で行われている、東日本大震災被災資料のボランティア作業の参加者およびNPO会員の研修の機会として、被災した地域の現状、救出・保全した文化財の現状確認などを含む巡見を実施した。2019年8月3日には宮城県石巻市、2019年9月16日には宮城県塩竈市で行った。塩竈市ではNPOみなとしほがまの会員と交流会を実施したが、そのことが宮城県松島町の台風19号被災資料の共同での保全活動につながった。

(2)歴史資料保全活動関連の講演・行事

本年度は以下の活動を実施した

、宮城資料ネット講演会 2019年7月6日 東北学院大学 参加者20名

川内淳史「神戸から見た東日本大震災―後方支援から広域支援体制へ―」
佐藤大介「歴史資料保全からの欧州紀行で考えたこと―事務局長のフランス・ドイツ見聞記」

2、2019年12月15日 新潟県中越地震15周年シンポジウム「繰り返す災害と長く向き合うために」

佐藤大介「宮城での歴史資料保全活動16年―4度の自然災害を経て」

3、地域歴史文化大学フォーラム in 名古屋 2019年12月22日 名古屋大学(愛知県名古屋市)

講演 斎藤善之「宮城資料ネットが経験したこと・その成果と課題―宮城と愛知をつなぐ・経験知の共有にむけて―」

4、第11回文化遺産防災ネットワーク推進会議 2020年2月4日 東京国立博物館(東京都台東区)

蝦名裕一「台風19号被害対応と文化財等マップの活用」

5、公開フォーラム「被災地と史料をつなぐⅡ―令和元年台⾵19 号における被災資料レスキューと現状―」 2020年2月27日 東北⼤学災害科学国際研究所(宮城県仙台市) 共催

報告など 川内淳史 「2019 年台⾵19 号での宮城県内での被災資料救済・保全活動」
蝦名裕⼀「⽂化財マップを活⽤した災害前の資料保全活動」
(宮城資料ネット関係者のみ記載)

6、第6回全国史料ネット研究交流集会 2020年2月8~9日 神戸市御影公会堂

蝦名裕一「宮城県における台風19号被害対応」
ポスター発表 井上瑠菜「宮城歴史資料保全ネットワークのいまを見つめる」

7、令和元年台風19号調査報告会~河川、気象、地盤、史学、災害医療の各分野から~

2020年1月8日 名城大学
蝦名裕一「台風19号被害における文化財マップの活用と歴史的教訓」
川内淳史「19世紀初頭丸森町の「町場替」と2019年台風19号被害について」

(3)展示・体験講座

大学ゼミ旅行などの受入対応

首都圏の大学などの訪問を受け、被災資料保全の体験実習を行ってもらうことで、被災資料の現場や技術を知ってもらう機会を設けた。今年度の受け入れは以下の通りである。
2019年9月3-4日 中央大学文学部・白根靖大ゼミ、山崎圭ゼミ(10名)

(4)その他の普及活動

①齋藤報恩会寄贈資料集出版事業

出版に向けた打ち合わせを2020年2月に実施する予定であったが、延期となった。

②会報「宮城資料ネット・ニュース」について

第333号(2019年4月1日)より第370号(2019年3月30日)まで37回の発信を行った。2019年台風19号での歴史資料保全の呼びかけ及び活動の報告を行った。平時のボランティア募集、行事案内とともに、巡見やシンポジウムの参加記など、多様な内容の発信を行うことが出来た。

③SNSでの発信

ツイッターおよびFacebookアカウントからの発信を行っている。毎週のボランティア活動についての速報とともに、2019年台風19号での被災資料救出については、関係する団体・個人の連動しながら広範な情報発信を実施できた。
*参考 ツイッター 472フォロワー Facebook 186フォロワー(2020年5月12日現在)

(5)その他

①文化遺産防災ネットワーク推進会議・ガイドライン

・国立文化財機構による文化遺産防災ネットワーク推進会議の構成団体として、2019年5月29日および2020年2月4日に東京国立博物館で開催された定例会議に出席した。
2月4日の会議では東日本大震災での活動報告とともに、2019年台風19号への対応を報告した。また同会議からの依頼により、蝦名裕一から文化財マップ関連の報告も行った。
なお、佐藤が参加していた「文化遺産防災ガイドライン策定」が完了し、2019年12月に公開された。

4 運営に関する事項

(1)理事会・総会

①理事会

・2019年6月1日 理事会 於:東北学院大学ホーイ記念館308教室
出席した役員 19名
・2019年3月4日 メール理事会 通常総会の日程及び会場・開催方法について

②通常総会

・2019年6月1日 東北学院大学ホーイ記念館202教室 出席した社員数82名(内、委任状提出者65名)、ほか参加者5名

(2)運営委員会

本年度は以下のように開催した。
○第9回 2019年4月5日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

理事会・総会の準備状況/斎藤報恩会資料集観光事業について

○第10回 2019年7月5日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

会員証について/東日本大震災被災保全資料の返却について/YS市庭コミュニティ財団助成事業について

○第11回 2019年10月4日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

資料の返却について/広域支援対応について/広報活動について/その他報告事項

○臨時 2019年10月21日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

台風19号の宮城県内における資料ネットの活動と方針

○第12回 2019年12月6日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

台風19号被災資料への対応状況

○第13回 2020年1月17日 東北大学災害科学国際研究所歴史資料保存研究分野研究室

台風19号被災資料への対応状況/台風19号の被災調査の今後について/2020年度総会・理事会について/広報活動について

(3)会費・活動資金について

①会費について

今年度の会費納入予定額は623,000円であり、実際の納入額は562,000円であった。

②カンパについて

東日本大震災にともなう歴史資料保全活動への寄附金として、今年度は9名から111,000円の寄附をいただいた。
台風19号にともなう歴史資料保全活動への寄附金として7名から153,006円の寄附をいただいた。

(4)会員の増減について

2020年3月31日時点での会員数 167名
正会員     123名(前年比+2)
賛助会員     33名(前年比-1)
学生会員    2名(前年比±0)
団体賛助会員  9団体(前年比±0)

5 新型コロナウィルス感染拡大への対応

2020年初頭からの日本国内における新型コロナウィルスが感染拡大している。事務局より東北大学の感染症の専門家に確認したところ、定例の活動については、マスクと手袋を着用する作業自体はリスクが低いが、休憩時間の歓談がクラスター化する懸念を指摘されたことなどを受け、2020年3月から運営委員会を除くすべての活動を停止している。次年度の活動の再開については、情報の収集、専門家らの助言を踏まえて対応したい。