1 歴史資料の救済・保全のための事業
(1)東日本大震災・2019年台風19号での被災史料の保全活動 令和2年4月~令和3年3月
①ボランティアによる被災した歴史資料への対応
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、ボランティアによる活動は大きな影響を受けた。
運営委員会で協議の結果、活動を行っている東北大学災害科学国際研究所のBCPレベルに対応する形で、5 段階のうち「2」以上の場合には活動を休止することとした。そのため、4月から8月中旬、および12 月から3月まで活動を休止することになった。
また、東北大学では学生の課外活動および感染流行地の学外者の来訪を制限したため、それに従う形で、例年は長期休暇中の受入が多かった学生ボランティアおよび体験学習についてもすべて休止となった。
その中で、今年度の作業日数は14日間、延べ146人の参加を得た。
主に2019年台風19号の被災歴史資料への対応を実施した。
なお、最初の中断期間中に、東北大学災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学分野)の助言を得つつ、室内作業時の感染防止ガイドライン(別紙1)を策定し、8月からの活動はそれに準拠して実施した。
②所蔵者への資料の返却
東日本大震災での被災史料については、10年が経過して、一時搬出後の借用期間が長期化している。
所蔵者へは時候の挨拶も兼ねた書信を実施するとともに、返却が可能になった事例については返却を進めた。
現時点では、個人所蔵者88件のうち、29件の返却が完了している。
(2)その他の救済・保全活動
①2019 年台風19 号での栃木県内の資料レスキュー活動への支援
2019 年台風19号で被災した栃木県佐野市個人宅の水損資料保全作業について、新型コロナウイルス感染症の影響で、保全作業に必要な消毒用エタノールが入手困難である旨、同作業に関わっている歴史資料ネットワーク(史料ネット)より支援要請があったため、2020年5 月、本法人ストック分3リットルを、作業場所である那須野が原博物館へ郵送した。
②2020年7月豪雨での資料レスキュー
2020年7月に全国を襲った豪雨については、東海および九州地方、東北では山形、秋田の関係者へ、事務局から状況の照会と情報提供、新型コロナウイルス対応も含めた救済活動への助言、指定文化財所在地のWebマップ提供を通じた支援を実施した。
現在、全国には30組織の史料ネット(関係機関)があり、広域自然災害でのレスキューでは相互に支援する関係が築かれている。
③2021年2月13日地震での歴史資料レスキュー
2021年2月13日深夜、福島県沖を震源とする強い地震が発生した。仙台市では幸い、停電その他の生活インフラに大きな影響が出なかったため、日付が変わって2月14日未明から活動を開始した。
被災が予想された自治体の関係者への連絡、指定文化財の所在Webマップの提供、およびそれらの情報を活用して、2月27日には福島県新地町、3月2日には宮城県山元町での巡回調査を実施した。
なお、前者についてはふくしま歴史資料保存ネットワーク(ふくしま史料ネット)と、後者は国立文化財機構文化財防災センターと共同で実施した。
このうち、福島県新地町では土蔵2棟と店蔵を解体予定の個人宅が確認されたため、3月7日・8日、および3月28日、29日に、ふくしま史料ネットを支援して、建物内部に保存されていた書類や民具類を一時搬出した。
なお、土蔵内及び屋外で実施する史料レスキューの活動に際しても、前述した児玉教授の助言を得つつ、活動ガイドライン(別紙 2)を作成し、それにもとづいて活動を実施した。
④一軒型保全活動
Ⅰ. 宮城県仙台市・S家資料の保全活動
2020 年 10月29日に、所有者の依頼により、仙台市のS家に所蔵されている旧仙台藩士関係資料のデジタル撮影を実施した。
S家の資料についてはすべて撮影を完了することが出来た。
Ⅱ. 岩手県大船渡市・K家ふすま下張り文書の保全活動
2020年10月31日、本会会員の張基全氏(一関市芦東山記念館)からの依頼で、ふすま下張り文書の保全活動を実施した。
ふすま3枚の両面に再利用されていた文書をその場で剥離し、仙台へ一時搬出した。
⑤古文書資料返却事業
今年度については、宮城県仙台市と宮城県美里町の所蔵者2件への返却を行うことが出来た。
さらに、宮城県仙台市(前述とは別の所蔵者)、大河原町、岩手県奥州市、同県金ケ崎町のそれぞれ1件の所蔵者について、現在の所蔵者が判明した。
なお現所蔵者の確認については、東日本大震災後のボランティア活動がきっかけとなったもの、および関係する東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門、および国立歴史民俗博物館の、それぞれの地域資料保存の取り組みで気づきつつあるネットワークを通じて、所蔵者の発見に至ることが出来た。
⑥一点目録の作成
事務局での作業として、ボランティアの鵜飼幸子氏が、台風19号で被災した涌谷町の個人所蔵文書の作成を行った。
なお上述の通り、新型コロナウイルス感染拡大にともなう行動制限によって、2020 年12月以降の作業は休止している
2 歴史資料の所在確認のための事業
東日本大震災後も毎年のように発生する広域支援災害への史料レスキューが継続しており、また新型コロナウイルス感染拡大にともなう行動制限などにより、地域単位で所蔵者を戸別訪問する形での「災害「前」の所在調査」を実施することは出来なかった。
3 広報支援事業
(1)第7回全国史料ネット研究交流集会の開催
東日本大震災から10年目の状況の共有と今後の課題の検討、および史料ネットなど地域での史料保全活動を核とする交流の機会として、第7回全国史料ネット研究交流集会を、関係各団体との共催で実施した。
開催形式については状況の推移を見守りつつ準備を進め、2020年10 月に、感染症拡大を踏まえて、史料ネット集会としては初めてとなるオンラインでの実施となった。
使用インフラの関係で上限300 人の事前申込制としたが、申込者数は上限一杯となった。当日のプログラムは(別紙 4)の通りである。
国内外の関係者のべ約550人が参加し、東日本大震災から10年が経過した現時点での活動の状況と課題、また全国の関係者間の交流の場ともなった。
*史料ネット集会のポータルサイト https://rhcr.info/shiryonet2020/
(2)広報用動画「東日本大震災から10年 NPO法人宮城歴史資料保全ネットワークと地域の歩み」の作成・公開
東日本大震災から 10 年を迎え、これまでの活動の歩みを記録し、史料保全活動の意義を多くの人たちに広めるための広報用の動画を作成し、上述の全国史料ネット研究交流集会の場で公開した。
なお本動画については Youtube にアップロードし、公開している。
https://www.youtube.com/watch?v=aQkuiMHF_Jw
(3)その他の関連行事など
その他、本年度は以下の活動を実施した。
①第2回北海道・東北地区の歴史資料保全に関するワークショップ-うち続く災害に、改めてどう向きあっていくのか-(2020年8月30日 オンライン 参加者23名)
2019年台風19号など自然災害に対する史料レスキューの課題、および目下続いている新型コロナウイルス感染拡大状況の中での人々の生活や社会の動向を示す記録の収集における課題について議論を行った。
(宮城資料ネット関係者の報告)
・佐藤大介「災害記録初心者の5か月-COVID-19の下で考えたこと」
・川内淳史「2019年台風19号での資料レスキュー」
②第40回仙台市史講座-仙台の災害と資料レスキュー(2020年11月14日 仙台市博物館 参加者20名)
・川内淳史「大災害から歴史を救う-被災史料レスキュー25年の歩み」
阪神・淡路大震災以来の、地域に残された歴史資料のレスキュー活動を振り返り、その成果と今後の課題について普及した。
(4)その他の普及活動
(1)齋藤報恩会寄贈資料集出版事業
7月10日開催の運営委員会で、史料の選定や解読の方法について協議を行った。
(2)会報「宮城資料ネット・ニュース」について
第371号(2020年4月11 日)より第401号(2021年3月30 日)まで30 回の発信を行った。
2019年台風19号での歴史資料保全の呼びかけ及び活動の報告を行った。平時のボランティア募集、行事案内とともに、巡見やシンポジウムの参加記、「コロナ断捨離」による史料誤廃棄防止の呼びかけなど、多様な内容の発信を行うことが出来た。
(3)SNSでの発信
ツイッターおよび Facebook アカウントからの発信を行っている。今年度については、いわゆる「コロナ断捨離」にともなう史料廃棄の懸念について呼びかけた2020年7月20日のツイートが8585リツイートを記録した。
宮城資料ネットとして所在の把握にはつながらなかったが、広報の手段として一定の有効性があったと考えられる。
*参考 ツイッター 670フォロワー(+188) Facebook 345フォロワー(+165)
(2021 年 5 月 24 日 午前 11 時現在)
(5)その他
国立文化財機構文化財防災センターの発足
2020 年10月、国立文化財機構に、新たに文化財防災センターが発足した。
東日本大震災で被災した文化財等を救済するための「文化財レスキュー事業」の後継組織として2014年7月に発足した文化財防災ネットワーク推進会議を母体にしたもので、宮城資料ネットは引き続き構成団体として活動に取り組んでいる。
前述の通り、2021年2月13日地震に際しては、本法人の活動範囲で知り得た被害状況の共有を行うとともに、被災状況調査を共同で実施した。
4 運営に関する事項
(1)東北大学災害科学国際研究所との包括協定の締結
東北大学災害科学国際研究所との関係については、同所の歴史資料保全学研究分野が事務局となっており、また同所の施設を拠点として活動を行ってきたが、今後のさらなる連携強化を目指して、2020年12月17日に「国立大学法人東北大学災害科学国際研究所とNPO法人宮城歴史資料保全ネットワークとの連携と協力に関する協定書」を締結した。
(2)理事会・総会
①理事会
・2020 年 6月7日 理事会 於:東北学院大学土樋キャンパス 出席した役員22名(うち、委任状提出11名)
議事の内容 通常総会での議案について
②通常総会
・2020年6月7日 オンライン 出席した社員数88名(うち、委任状提出者57名)
2019 年度の活動状況、収支状況を報告するとともに、新型コロナウイルス感染拡大への対応について情報を共有した。また、新任理事3名を選出した。
(2)運営委員会
本年度は、新型コロナウイルスへの対応や、全国史料ネット研究交流集会への実施も踏まえて、ほぼ2週間に1回のペースで、オンラインでの開催を実施した。
主要な議事内容は以下の通りである。
○第14回 2020年4月10日
新型コロナウイルスへの対応/総会・理事会の開催形態/ボランティア作業の中止と代替企画の協議
○第15回 2020年4月24日
新型コロナウイルスへの対応(コロナ断捨離にともなう廃棄防止の呼びかけ、古文書画像データの共有について)、史料閲覧希望への対応など
○第16回 2020年5月8日
総会の実施方法について/新型コロナウイルスへの対応(活動指針の作成・画像閲覧など)など
○第17回 2020年5月22日
総会の運営について/新型コロナウイルスへの対応(オンライン活動について)
○第18回 2020年6月29日
オンライン活動について/新型コロナウイルス下の活動指針について
○第19回 2020年7月10日
九州などでの豪雨にともなう史料レスキュー対応について/新型コロナウイルス下の活動ガイドラインについて
○第20回 2020年7月21日
斎藤報恩会史料集について/九州豪雨での史料レスキューに関する情報共有
○第21回 2020年7月31日
秋田県・山形県での豪雨にともなう史料レスキューへの対応について/ボランティア作業の再開について
○第22回 2020年8月21日
古文書画像の共有方法について/全国史料ネット集会の開催形態について
○第23回 2020年9月4日
東日本大震災被災史料所蔵者への書信と結果について/全国史料ネット集会の内容について
○第24回 2020年9月18日
全国史料ネット集会の開催形態と内容について/撮影ボランィア作業の再開について
○第25回 2020年10月1日
全国史料ネット集会の開催形態・内容について
○第26回 2020年10月16日
全国史料ネット集会の準備状況について
○第27回 2020年10月29日
全国史料ネット集会の準備状況について
○第28回 2020年11月13日
全国史料ネット集会の準備状況について/新型コロナウイルス感染拡大にともなう注意事項の共有/史料保全依頼への対応について/東北大学災害科学国際研究所(災害研)との協定案について
○第29回 2020年11月26日
全国史料ネット集会の準備状況/宮城史料ネット広報動画の作成について/史料借用の現状確認・長期借用にともなう所蔵者への対応について/個人所蔵史料への対応状況について
○第30回 2020年12月11日
全国史料ネット集会の準備について/東日本大震災被災史料の現況確認について/東北大災害研との協定、自治体との協定締結についての検討
○第31回 2021年1月14日
動画作成について/災害研との協定について/ボランティア作業について/全国史料ネット集会にむけて
○第32回 2021年1月29日
動画作成について/ボランティア作業について/NHK 秋田放送局からの資料提供依頼について/災害研共共拠点申請への推薦について/全国史料ネット集会について
○第33回 2021年2月12日
全国資料ネット集会運営について
(4)会費・活動資金について
①会費について
今年度の会費納入予定額は627,000円であり、実際の納入額は626,000円であった。
長期滞納者からの納付があり、総額ベースでは、堅調な収入を得られている。
②カンパについて
東日本大震災にともなう歴史資料保全活動への寄附金として、今年度は9名から132,000円の寄付を得た。記して感謝申し上げる。
*寄付者指名(敬称略・順不同)
松原潔 菅原譲 西田かほる 岡田清一 遠藤美保子(×2回) 木津亜希菜 山本絵里子 籾木郁郎 カジノタエコ
(5)会員の増減について
2021年3月31日時点での会員数 168名
正会員 124名(前年比+1)
賛助会員 33名(前年比±0)
学生会員 2名(前年比±0)
団体賛助会員 9団体(前年比±0)