355号 台風19号 宮城県内での活動状況について
2019.10.29
10月12日の台風19号による大きな被害の発生から2週間あまりが経過しました。宮城資料ネット事務局では、連日、宮城県内での台風19号被災地での緊急の被災状況調査ならびに資料保全活動を実施しています。そのうちいくつかの活動については、すでに「宮城資料ネット・ニュース」を通じてお知らせしておりますが、本号ではまだお知らせできていない活動状況を含めて、宮城県内での資料保全活動の現状についてお知らせいたします。
10月18日 大郷町での被災状況調査
本活動については、『宮城資料ネット・ニュース』352号にてお知らせしていますので、そちらをご参照下さい。
10月20日 丸森町・角田市での被災状況調査と史料レスキュー
本活動については、『宮城資料ネット・ニュース』353号にてお知らせしていますので、そちらをご参照下さい。
10月21日 名取市・柴田町・角田市・丸森町での被災状況調査と史料レスキュー
10月21日(月)、事務局の蝦名、川内が名取市、柴田町、角田市、丸森町での被災状況調査を実施しました。調査にあたっては大郷町の際と同様、文化財マップ(蝦名作成)と宮城資料ネットによる資料所在一次調査リストをもとに、浸水が懸念される文化財および資料所蔵先を中心に調査しました。
・名取市、柴田町
名取市、柴田町については文化財等の大きな被害については確認されませんでしたが、一次調査リストに掲載されている所蔵宅が更地になっている事例があるなど、今回の台風被害とは直接関係はありませんが、資料所蔵状況の追跡調査やデータの更新を行っていく必要性を感じました。
・角田市
角田市については、今回の調査では資料所蔵先等の被害については確認できませんでしたが、353号でもお知らせしたとおり市内各地で大きな被害が出ていました。そのため、被災家屋から出された被災ゴミの集積所が市内各地に設置されており、いくつかの集積所を確認したところ、下張り文書が確認された襖や、唐箕などの民具類の廃棄が確認されました。このうち襖についてはその場で下張りを剥いで回収しましたが、民具類については持ち帰ることはできませんでした。
・丸森町
丸森町についても、すでに353号でお知らせしたとおり、大きな被害が確認されています。丸森到着が夕暮れ時になってしまった今回の調査では、舘矢間地区および町中心部の状況を車中より確認した上で、町役場南側の町民グラウンドに設置された被災ゴミ集積所へ向かいました。周囲はすでに暗くなりかけていましたが、被災ゴミの中に扁額(下張りあり)、襖数枚および唐箕など民具類を確認しましたが、大量の被災ゴミの下に埋もれてしまっているものもあり、全てを保全する事はできませんでした。
なおこの日の夜には臨時の運営委員会を開催し、委員間での被災状況の情報共有とともに、今後の方針の確認がなされました。
10月22日 涌谷町での被災状況調査と史料レスキュー
本活動については、『宮城資料ネット・ニュース』354号にてお知らせしていますので、詳細についてはそちらをご参照下さい。
なお涌谷町では、被災ゴミ集積所より襖数点を回収・保全しましたが、私たちの作業終了後、すぐに重機によるゴミの破砕作業が開始されました。被災地では大量に出ている被災ゴミの処理が急ピッチで進められていますが、ここで救えなかった歴史資料は永久に失われてしまうという現実を、改めて突きつけられた思いでした。
10月24日 岩沼市・亘理町・丸森町での被災状況調査と史料レスキュー
10月24日(木)、事務局の蝦名、川内が岩沼市・亘理町・丸森町での被災状況調査および保全活動を実施しました。
・岩沼市、亘理町
岩沼市と亘理町について被災状況調査を実施しましたが、文化財や資料所蔵者に目立った被害は見られませんでした。
・丸森町
丸森町教育委員会生涯学習課の方よりご連絡をいただき、「まるもりふるさと館」へ向かいました。まるもりふるさと館は大規模浸水に見舞われた町中心部に位置しており、館贈品の被災が大変心配されていましたが、館の建物自体は浸水を免れましたが、隣接する倉庫が浸水し、収蔵していた考古遺物が被害を受けました。
丸森町教委の方からは、展示室の雨漏りによって水濡れした仏像の処置を依頼されたため、仏像修復家の松岡誠一(http://syuuhuku.com/index.html)さんに処置法をレクチャーいただき、応急処置を行いました。また、水没した考古遺物については、県教委などと連携をとって対応していくとのことです。なお丸森町の学芸員さんは
まるもりふるさと館を辞した後は、町内の金山地区、大内地区、大張地区での被災状況調査を実施しました。
今回の調査では、前回回ることができなかった金山地区、大内地区、大張地区の調査を実施しました。金山地区と大内地区については、10月20日(日)に事務局の佐藤が状況確認の調査をすでに実施していますが、あらためて見ますと、浸水による被害の様子が見受けられました。大内地区では、大内山村広場に設置された災害ゴミ集積場にて「磐城国伊
具郡」と墨書されたタンスの引き出しを確認しましたが、保全することができませんでした。
金山地区では、金山小学校グラウンドに設置されている災害ゴミ集積場(閉鎖済み)へ向かいましたが、小学校周辺も浸水による大きな被害を受けた様子が見られ、復旧に時間を要すだろうという印象を受けました。災害ゴミ集積場の調査を行いましたが、ゴミの量が多く、保全すべき対象は確認できませんでした。
次に町東部の大張地区へ向かいました。大張地区へは、町中心部から阿武隈川沿いに走る国道349号線を通るルートで向かいましたが、各地で土砂崩れが発生し、また道路陥没なども多数見られ、通行にも危険な状況でした。大内地区の大耕農村広場の災害ゴミ集積場を確認しましたが、一部民具等の廃棄は見られたものの、保全することはできませんでした。
国道349号線。土砂崩れや浸水被害などが多数あり
その後、10月21日に引き続いて、町中心部の町民グラウンド災害ごみ集積場へ行きましたが、3日間のうちに災害ごみの量はさらに増えている状況でした。重機も入り、すでに破砕も始まっている状況でした。
10月25日 登米市での被災状況調査と史料レスキュー
10月25日(金)、事務局の蝦名、川内が登米市での被災状況調査および保全活動を実施しました。登米市の被害については報道等であまり触れられていませんでしたが、災害直後より会員や関係先のみなさまより、特に北上川左岸地域の被害についての情報をお寄せいただいていたこともあり、今回、調査を実施いたしました。
・旧東和町
まず、市域の北東部にある旧東和町へ向かいました。旧東和町については地元の東和郷土研究会のみなさんと連絡をとりつつ、被害情報の収集を行ってきました。今回はまず、東和総合支所(旧東和町役場)に隣接する災害ゴミ集積場に向かい、職員の方の許可を得て、保全するべき資料のチェックを行いました。他の集積場と同様、民具類も多数廃棄れていましたが、下張り文書が確認された襖数点の保全に留まりました。東和町の被災ゴミを眺めてみると、全体的に他地域より民具類の廃棄が目に付き、古い家屋に被害が出ているのではないかとの印象を受けました。
下張り文書が確認された襖を救出・保全
次に、一次調査リストに基づいて資料所蔵先の被災状況調査を実施しました。宮城資料ネットで把握している資料所蔵先について大きな被害の様子は見られませんでしたが、台風被害以前にすでに空き家になっていたであろう旧家も見られ、災害と同時に地域の過疎化も地域の歴史資料の継承については大きな課題であることを改めて感じました。
・旧登米町
「みやぎの明治村」として、伝統的建造物が数多く建ち並ぶ旧登米町ですが、大きな被害の様子は見られませんでした。
・旧津山町
旧登米町から北上川左岸を通り、国道342号~45号線と進んでいくと、再び大きな被害の様子が見られる様になりました。旧津山町については手元の一次調査リストに資料所在情報がなかったため、さしあたり横山公民館にある災害ゴミ集積場へ向かいました。
横山地区へ向かう途中、南沢川沿いにある「道の駅津山」に立ち寄りましたが、大きな被害を受け、閉鎖されていました。
到着した横山公民館に隣接する災害ゴミ集積場は、容量超過のためにすでに閉鎖されていましたが、公民館にいた職員の方に許可をとって、被災資料の調査を実施しました。ここでも民具類の廃棄は確認されたものの、紙資料については確認できませんでした。
次に、近くの陸前横山駅裏にある災害ゴミ集積場に向かいました。集積場ではシルバー人材センターのみなさんがゴミの受け入れ・整理作業に従事されてましたのでので、現場の方に被災歴史資料・文化財の調査をしている旨をお話ししたところ、こころよく調査にご協力頂けました。この集積場でも多数の民具の廃棄が確認され、どこの地域かは特定できませんでしたが、旧津山町域の古い集落で大きな被害が出ているのではないかとの印象を受けました。
この日は「台風19号以降、最も強い雨」が予想された日でしたが、陸前横山駅裏集積場の調査時には風雨とも大変強まってきたため、ここで調査を打切り、仙台へと帰りました。
現在、発災より2週間ほどたちましたが、報道では多く伝えられていない所でも被害が発生している状況がわかってきました。それと同時に、今回の台風被害はかなり広範に出ているにも関わらず、その全体像がなかなか掴みきれないという特徴があるように感じます。その理由は何なのかについてはこれから検討してみたいとは思いますが、さしあたり歴史資料の被害がありそうな地域については、今後、別の形での詳細な調査を行っていく必要性がある様に感じています。
また、今回の緊急被災状況調査のなかでは、災害ゴミ集積場からわずかながらも下張り文書ありの襖等を救出する事ができましたが、同時に今回の災害で失われてしまった歴史資料(とくに民具)も多数あるであろうと考えられます。もしもう少し早く動く事ができてれば、これら失われた資料のうち幾点かは救えた可能性があったのでは?と考えると、残念でなりません。今回の災害対応が収束した後、あらためて今回の対応についての検証を行っていく必要性を感じています。
いずれにせよ、今回の台風19号対応については長期戦になることが予想されます。会員ならびにご関心ある皆様には、さらなるご支援・ご協力をお願いしたいと思います。また同時に、歴史資料や文化財に関する被災の情報、またご相談についてございましたら、事務局までお寄せ頂きます様、よろしくお願い申し上げます。(文責:川内淳史)