400号 「3.11」から10年

守る―保全活動広める―普及活動救う―救済活動東日本大震災

日本の観測史上最大の地震と、それに伴う津波をきっかけに、東日本に暮らす人々が甚大な被害を受けた(受け続けている)あの日から、今日で10年が経過しました。最初に、犠牲になられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

また、この間の被災した歴史資料の救済・保全活動に、様々な形で、多くの方からご支援を頂いておりますことに、改めて御礼申し上げます。

記録に残っている、2011年11月から2021年3月までに、被災した歴史資料を、水洗その他の方法で安定した状態にする活動に参加したボランティアは、延べ8044人です。その7割を占める5164人の市民ボランティア、またこの数字には含まれませんが、長期休暇を利用した宮城県内外の大学生ボランティアらの善意によって、活動は支えられてきました。宮城での経験は、その後も日本列島各地で続く自然災害での史料レスキューへの対応、国による文化財防災の場に生かされています。

市民ボランティアの中には、自らの力で地域の史料レスキューを実施し、貴重な史料を保全する、また古文書解読サークルが生まれ、古文書解読史料集が出版されるなどの動きも見られました。活動を長期化せざるを得ない様々な制約の中で、期せずして生まれた「持続的に歴史に関わり続ける日常」のもつ可能性を考えさせられます。

その一方、救済した個人所蔵の歴史資料83件のうち、元の所蔵者にお返しできたのは25件、まだ3割ほどです。歴史資料を共有するために、その内容を整理したり、読み込んだりする活動が、人員その他の制約で進んでいません

救出した史料が再び災害に遭わないようにするには、史料が物理的に保管されているだけではなく、人々の関わりの中で社会的に存在している状態にすることが不可欠だということを、「3.11」の史料レスキューから学びました。

地域の歴史再生に関わる活動としては、「よみがえるふるさとの歴史シリーズ」12冊の刊行もありますが、さらなる活動が必要です。この点、改めてご支援をお願いできれば幸いです。

10年前の史料レスキューに際して、「なぜこの非常時に史料レスキューをするのか」という批判が投げかけられました。これに対して、私たちは十分な応答ができるようになったのでしょうか。

2018年12月11日、フランス・パリで開催されたユネスコ「世界の記憶」部門主催のフォーラムに招待され、活動について講演する機会を与えられました。宮城も含めた各地の史料ネット活動が、期せずして、国際社会における災害・紛争被災者支援の基調となっている「心理社会的支援」の実践の一つになっている可能性を学ぶ機会ともなりました。(「心理社会的支援」については、城資料ネット・ニュース386号で紹介しています)。

文化財・歴史資料に関わる活動それ自体が、災害支援としての役割を果たしうるとするならば、「災害時に文化財・史料は後回し」のような自己規制の言葉を、関係者のみならず、歴史や記憶に少しでも思いを寄せる人々で口にするのを、止めることにしましょう。

現在は新型コロナウイルスの感染拡大で、活動も制約された状況下にありますが、被災した地域の歴史再生、活動の普及と継承、また国内、海外に向けて、史料レスキューからの「3.11」を共有することも、今後重要な役割となるでしょう。

引き続き多くの方のご支援、ご協力をお願い申し上げます。