172号 2012年9月の活動-震災対応・各地での活動
2012.10.03
事務局佐藤大介です。今回は9月の活動について報告します。
1 各地での活動
■登米市K家での被災状況調査
9月2日、登米市K家にて所蔵者の依頼による被災状況調査を行いました。同家は2004年に、合併前の登米町の域内で実施した所在状況調査で訪問していました。今回の震災では土蔵が壊れるなどの被害があったとのことです。今後の保管に不安を感じたとのことで、私たちが2004年の調査で配布したチラシを見て連絡されたとのことです。
公開施設として活用されている店蔵や土蔵は、すでに行政の補助を得て修復されていました。所蔵品については震災により転倒したり散乱したりしたとのことですが、ある程度まで片付けられていました。一方、民具を中心とする膨大な資料の活用方法について相談がありました。個人で運営する史料展示施設への支援については、災害対応とは異なりますが、地域に残された歴史資料を守るための課題だと感じました。
■一関市K家へ古文書史料返却
9月4日、一関市K家への返却を完了しました。会員の荒武賢一朗さん(東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門)と事務局の佐藤が、一関市博物館および芦東山記念館の職員とともに訪問しました。
K家については、7月に本会会員である一関市芦東山記念館の張基善さんからもたらされました。同館職員の千葉貴志さんからは、大学の先生による史料未返却もあり、これまで史料の公開には極めて慎重な対応をされていたというお話もありました。研究者による史料の未返却が地元にどのような影響を残すか、改めて知る事になりました。このことを事前情報として得ていた私たちは、緊張感をもって訪問しました。
(絵:K家土蔵に残されていた文書・9月4日)
ご当主は、20代のころ、昭和20年代後半に東北や関東の大学が共同で実施した古文書調査のことをご記憶でした。「先祖が大切に整理していた書類を大学の先生たちが部屋にぶちまけはじめたので、対応した父親は怒って、それ以来研究者には史料を一切見せなくなった」とのことでした。かつての「主題別分類」による調査は、それまでの保管の秩序を崩してしまうという技術的な問題があるということは、関係者の間ではよく知られています。一方、史料を大切に伝えてきた所蔵者がどのように感じるかは、あまり顧みられなかったようにも思います。現状記録を取ればよい、ということではなく、所蔵者の史料に対する思いをよく知るということが重要なのだといえます。
対象となった史料5点の返却を終えると、御当主は事前に用意されていた10数点の史料を見せてください
ました。早速、デジタルカメラで撮影を始めると、このような方法があるのかと驚かれ、中が散らかっていて恥ずかしいが、他の史料も見てほしいと、土蔵に案内されました。そこには、前述の大学研究者たちによる整理の後で、親戚の方が茶封筒で整理したという推定数万点の古文書がありました。父親から託された史料をどうやって残せばいいか不安に感じていた、ぜひこれらも整理してほしい、とのことでした。
今回の訪問は、史料をなんとか将来に伝えたいという所蔵者にとって、結果的に時宜を得たものだったようです。一方で、地元の所蔵者にとって、史料を守るための時間は、それほど潤沢に残されているわけではないことを再認識する機会ともなりました。
■ふくしま史料ネットへの支援
9月6日・7日の両日、ふくしま歴史資料保存ネットワークによる被災歴史資料の撮影支援を行いました。詳細はネット・ニュース170号をご覧ください。
■所在確認調査-丸森町O家
9月8日には仙台市博物館学芸員の佐々木徹さん(文献)、酒井昌一郎さん(美術)とともに、事務局の佐藤が丸森町O家で所在確認調査を行いました。
同家への訪問も、所蔵されている古文書などの保管に不安を持たれた所蔵者が、仙台市博物館に相談されたことがきっかけです。6月には仙台のNPO事務局に訪問をうけ、状況について聞き取りを行いました。その後は被災資料対応などもあり、やや期間をおいた訪問となりました。
現地を訪問すると、倉庫に多数の古文書、さらには彫刻や書蹟などの美術系の史料が収められていました。三人で分担して、保管状況や概要撮影を行いました。それぞれの専門分野を活かし、多様な種類の史料に対応しました。
2 事務局での活動
(絵:丸森町O家での調査9月8日)
■東日本大震災・津波被災資料への対応
東日本大震災の津波で被災したふすま下張り文書などの被災資料への消毒とクリーニングを継続しています。9月は作業日数6日間、延べ36人で作業を進めました。
■東日本大震災・被災史料の撮影
応急処置を終え、撮影に支障のない状態になった史料はデジタルカメラでの撮影を進めています。11日間、延べ34名で、11762コマの撮影を終えました。
■栗原市O家文書の保全
今回の被災史料とともに、岩手・宮城内陸地震の際に保全したO家文書のクリーニング作業を進めています。史料は公的機関への寄贈が予定されており、受入のための環境を整えるという意味もあります。9月は作業日数10日間、のべ70名で、段ボール13箱分のクリーニングを終えました。被災史料への対応も含め、今月も担当スタッフの奮闘で作業は順調に進みました。とはいえ、O家についてはまだ40箱以上のクリーニングが必要な状況です。
クリーニングを終えた資料について、順次現物参照による目録作成を始めました。作業には、東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門の支援を得ています。史料の公的機関への寄贈に際しては、目録を作成が必須であることが多くあります。一方、現状では、各機関で目録を作るための人員確保が難しいこともあります。公的機関へのスムースな受入を支援すべく、作業を進めています。