209号 2013年下半期(6月中旬~12 月)の活動(その1) 被災地からの一時搬出

救う―救済活動東日本大震災

 事務局佐藤大介です。2013年の活動について、本ニュースでは6月中旬以降個別の事案や参加記などの形で発信してきました。一方で、これ以外に発信されていない活動も多く実施しています。活動は収束に向かうどころか、なお緊急対応が続いている状況です。
 本会の活動にご支援いただいている皆様に対し、佐藤個人の多忙を理由に、活動報告がとどこっておりましたことを謹んでお詫び申し上げます。
 むろん、私たち自身にとっても自らの歩みをきちんとした形で記録することが必要です。そこで改めて下半期全体をまとめる形で報告いたします。本号は、被災地での歴史資料の救済・保全についてです。

1 活動の経過

 メールニュース198号(2013年6月8日付)で報告した宮城県石巻市G家での活動のあと、以下の通り活動を実施しています。

(1)●2013年6月23日 宮城県石巻市・A家
・東北学院大学経営学部斎藤善之ゼミ、東京などからのボランティアの支援で、津波で被災した同家の近代文書や道具類の保全を実施した。

石巻市A家での活動(2013年6月23日)

       

(2)●2013年7月24日 宮城県亘理町・K家
・事務局・佐藤が対応。
・津波で被災した同家所蔵の近世絵画1点を
保全・搬出した。

(3)●2013年7月30日 宮城県女川町・C家およびD家
・女川町域で津波被災を免れた古文書の記録化作業として、女川町文化財保護委員を通じて文書が搬入された。(12月16日完了)

(4)●2013年7月30日 宮城県気仙沼市・気仙沼小学校
・理事・大平聡および宮城学院女子大学大平ゼミの学生、事務局・天野が対応。
・震災後に確認された学校文書を、保全のため東北歴史博物館に搬入した。

(5)●2013年9月6日 宮城県東松島市・K家
・東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門(上廣部門)との共同での活動。
・所蔵者の了承を得て文書資料を搬出し、撮影した(完了)

(6)●2013年9月11日 宮城県気仙沼市・気仙沼小学校
・理事大平聡、事務局天野が対応
・燻蒸依頼していた同小学校資料を受け取り、一時保管場所である旧気仙沼市立月立中学校校舎へ搬入した。

(7)●2013年9月15日 宮城県石巻市・S家
・理事長・平川と事務局・佐藤が対応。
・津波での流出を免れた古文書数百点を搬出した。
   
(8)2013年11月26日 宮城県仙台市・I家
・事務局・佐藤と仙台市史編さん室と共同での活動

(9)2013年12月4日 宮城県仙台市・S家
・事務局・蝦名と安田が対応。
・震災で被災した岩沼市O家旧蔵の近世・近代文書数十点を保全した。

 震災から1000日以上を経過しましたが、未だに毎月1回ほどの被災地での活動が続いています。9件のうち6件は津波被災地での活動です。なお、東日本大震災で直接被災したものではない活動事例についてはここに含まれていません。それらについては別途報告いたします。
 以下、津波被災地と内陸部での活動に分けて、いくつかの事例を紹介します。

2 津波被災地での活動

◇亘理町K家(2)
 同家ではかつて菓子店を営んでおり、亘理町の自宅には菓子の型や書類など多くの史料が保管されていたとのことです。それらは、今回保全した掛け軸1本を除き、津波ですべて流されてしまいました。所蔵者の方によれば、掛け軸は家の歴史にとってもっとも大切なもので、津波の後自宅の敷地で必死で探して見つけたときには涙が出るほどうれしかった、ということでした。

 その後、現在の一時移転先に持参し、乾かしていたとのことですが、津波での痛みや今後の保存に不安があり、何とか修復して欲しいという、所蔵者からの切実な要望がありました。
 史料は幸いカビなどの深刻な損傷は少なく、目下、保存修復の関係者と連携して対応を進めています。

搬出した亘理町K家掛け軸の状態確認(2013年7月24日 仙台市にて)

◇石巻市S家(7)
 S家は、北上川(追波川)の河口に近い地区にあります。母屋は津波で建物一階部分まで浸水しましたが、神棚の上に保管されていた文書は浸水を免れました。江戸時代の浜でのなりわいに関わる貴重な史料が確認されました。
 一方、この地区は震災後に災害危険区域に指定されました。所蔵者も含め、震災前に暮らしていた人々は、家業のための滞在は許されますが、居住することは叶いません。地域は、重大な局面に直面しているといえます。

 そのようなこともあり、所蔵者からは史料の内容や、地域の歴史をきちんと知りたいという要望がありました。史料の保全を超え、将来に地区の歴史を伝える重要な仕事を託されました。

◇気仙沼小学校文書(4)・(6)
 大平理事の震災後の精力的な活動で確認・保全された文書については、宮城県の東北歴史博物館での燻蒸対応を行い、気仙沼市で一時保管場所が確保されました。行政の支援も得て、保存にむけたとりくみが着実に進んでいます。

3 内陸部での活動

◇仙台市I家(7)
同家は、震災直後に仙台市史編さん室で巡回調査を実施しています。ところが今年秋に入り、所蔵者の関係者を通じて土蔵の雨漏りが心配だとの連絡があり、改めて調査を行いました。今回の活動では、巡回調査では所在確認出来なかった、調査済みの近代文書数百点の無事が確認されました。さらに、土蔵の中にまだ多くの文書や民具類が保管されていることを確認しました。これらは、来年改めて本格的な保全活動を実施する予定です。

仙台市I家での所在確認調査(2013年11月26日)

◇仙台市S家(9)
 同家では、震災で仙台市内にあった母屋と倉庫が被災したため、その取り壊しに際して大半の史料を焼却処分したとのことです。内陸部でもこのような形で、救済・保全のネットワークにかからずに処分された史料は無数にあると考えられます。被災史料の一時搬出という初期の活動についても、手を緩めることはまだ当分出来ない状況だといえます。

4 情報源

 これらの情報がどこからもたらされたかは、今後の歴史資料保全活動を考える上でも重要だと思われます。前年度からの継続事業である気仙沼小学校と女川町の事例(8)を除くと、下記の通りです。
 石巻市A 家(1)は本会副理事長の斎藤善之さん、石巻市S 家(7)は、震災前から所蔵者や地区と関わりのあった関係者の方、仙台市I 家(8)は、仙台市史編さん事業に関わっている中川正人さんからの情報です。いずれも、震災以前から関係のある方々の情報を通じて、宮城資料ネットによる保全活動につながっています。震災前からのネットワークの重要性が改めて確認出来ます。
 また岩沼市K家(2)は、報道で宮城資料ネットの活動を知った所蔵者の関係者から、東松島市K家(5)は、所蔵者がインターネット検索で上廣部門の公式サイトを見つけたことがきっかけになっています。多様な手段で情報を発信することも、多くの史料を保全する上で重要なようです。

 仙台市S家(9)は、事務局でのボランティアに参加している学生からの情報です。活動を通じて関心を高めるなか、偶然知人の方が史料を保管していることを知り、情報がもたらされました。間接的な広報とは別に、活動そのものに多くの方の参加を得ることも、活動への関心を高めると共に、参加者を通じて情報網をさらに広げる効果があると考えられます。

 次号では、仙台市の東北大学で続けられている活動について報告します。