211号 2013年下半期の活動(その3) 様々な活動

守る―保全活動

 事務局佐藤大介です。2013年における宮城資料ネットの活動は、東日本大震災で被災した歴史資料への対応にとどまりませんでした。特に、個人の所蔵者の方々の依頼に応じた活動が増えてきています。活動への社会的関心の高まりや、市民参加によるネットワークの広がりがその背景です。また、活動の普及にも努めています。活動報告の締めくくりは、それらの活動についてです。

1 「一軒型」調査保全活動

6月から12月まで、以下の活動を実施しました。

(1)2013年6月17日 宮城県仙台市・S家文書
 鹽竈神社の社家を勤めたS家に伝来した文書です。所蔵者の方は廃棄をお考えになっていましたが、同じ町内に本会会員の高橋陽一さん(東北大学東北アジア研究センター助教)が住んでいることを知り、高橋さんに相談されました。それを受けて高橋さんと事務局・佐藤が調査し、保全されることになりました。文書は借用して、全点の撮影と目録作成を終えています。

仙台市S家での概要調査(6月17日)

(2)2013年7月22日 宮城県村田町・神風講引継文書など
 本資料の存在は、6月29日に実施された村田町での歴史講演会の場で、地元の方から所在不明との情報が寄せられ、知るところとなりました。原本は、講が平成2年(1990)に中断した後、当時の関係者から村田町歴史みらい館に寄贈されていました。途絶えかけた住民組織の記録が、行政の史料保管施設で保全されるという、史料保全における地元の主体的な活動の重要さを知ることになりました。
 安永7年(1778)から平成2年までにおよぶ講の記録の活用を図るため、借用して写真撮影を実施しています。

(3)2013年7月28日 宮城県川崎町・川崎伊達家文書
 川崎に拠点を置いた仙台藩主伊達家の一門である川崎伊達家文書の保全活動です。詳細はネットニュ仙台市S家での概要調査(6月17日)一関市K家での保全活動(8月9日)

(4)2013年8月7-9日 岩手県一関市・K家文書(3 次)
 昨年9 月に古文書返却事業で訪問したK家で、残された数万点の江戸時代文書の全点撮影を継続しています。
今回の活動は、芦東山記念館・一関市博物館と、宮城資料ネットからは市民ボランティアに加え宮城学院女子大、東北学院大、東北大および東京農工大、韓国・江陵大、オーストリア・ウィーン大の有志メンバー28名で実施しました。旧家での史料保全活動が初めてという学生が大半で、史料が生み出された現場の雰囲気や、所蔵者や地元の方々と交流する機会となりました。

一関市K家での保全活動(8月9日)

(5)2013年9月21・22日 宮城県丸森町・O家文書O家は、仙台藩南部の修験者を統括する立場にありました。同家資料の保全については、昨年度中に所蔵者から仙台市博物館を通じて相談を受けていました。
 同家文書の保全については、2013年度は佐藤が講義を担当している東北大学文学部・大学院文学研究科での史料整理実習の一環として、宮城資料ネットや東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門(上廣部門)の協力を得て現地調査を実施することとしました。

 9月の活動には、学生と宮城資料ネットの市民スタッフ、上廣部門から合わせて23名が参加し、未整理の古文書の中性紙封筒への詰め替えと全点撮影を実施しました。

(6)2013年10月10日 宮城県川崎町・川崎伊達家文書(2 次)
  *ネットニュース208号を参照。

(7)2013年10月20日 宮城県丸森町・O家文書(2次)
 9 月に参加できなかった学生向けの活動として、宮城資料ネットスタッフの協力を得て文書の撮影を実施しました。なお、講義では写真を用いて目録作りを進めています。

丸森町O家での古文書撮影(9月21日)

(8)2013年10月26・27日 岩手県大船渡市・S寺文書
 津波での被災を免れた寺院所蔵資料のデジタルカメラによる撮影を、現地で実施しました。活動は事務局の蝦名、宮城資料ネットの市民スタッフと、東京からのボランティア参加を得ました。

(9)2013年10月28日 岩手県一関市・C家文書
 C家は、戦国末以来の由緒を持つ旧家です。同家が北上川水系での治水計画により、近い時期の移転を求められる状況にあるとのことで、一関市博物館を通じて文書とともに、土蔵の調査を依頼されました。
 この活動については、建築班の佐藤敏宏さん、東北大学植物園の大山幹成助教の参加を依頼しました。土蔵の図面と共に、土蔵の部材の材質についても調査し、伝統的建造物を多面的に記録するためです。今回は4棟ある土蔵の1棟について簡易測量と部材サンプルの収集を行いました。
 また土蔵内には、かつて整理されたものとともに、膨大な未整理文書が確認されました。今回は整理済み分の全点撮影を実施しています。
 今回は「木と紙」で作られた、地元の歴史資料を総体として把握しようとする試みとなりました。引き続き、連携のあり方を模索することにしています。

一関市C家土蔵の簡易測量(10月28日)
一関市C家土蔵部材のサンプル採取(同)

 
(10)2013年11月23・24日 岩手県一関市・K家文書(4 次)
 8月の活動に引き続き、K家文書のデジタルカメラによる撮影を、上廣部門および東京農工大学の参加も得て実施しました。

2 広報・展示に関する活動

 6月から12月までの広報・展示に関する活動は下記の通りです。

(1)6月29日宮城県村田町での歴史講演会「よみがえる村田の歴史~江戸時代からのメッセージ~」
 村田町教育委員会、東北アジア研究センター上廣歴史資料研究部門との共同主催で、震災で保全された文書を用いた講演会を実施しました。本会会員の小関悠一郎さん(千葉大学)と佐藤が講演を行いました。合わせて、村田町歴史みらい館で、保全された文書の展示が実施されました。震災後に宮城資料ネットが関わった保全資料による、初めての現地での講演企画となります。
 なお、講演会の詳細は、東北大学東北アジア研究センター上廣部門の公式サイトをごらんください。

(2)7月20-21日 文化財保存修復学会第35回大会での記念講演・ポスター展示
 宮城県仙台市で開催された文化財保存修復学会第35回大会にて、本会理事長の平川新が記念講演「災害が進めた学際連携-文化財を未来へ-」を行いました。また、大会期間中には東北大学川内萩ホールにてポスター展示を行いました。
 同会関係者からは引き続き被災した歴史資料への保存科学的な対応について助言を得ております。記して御礼申し上げます。

(3)9月14日日本図書館文化史研究会での特別講演
 東北大学川内キャンパス(仙台市)で開催された日本図書館文化史研究会2013 年度研究集会での特別講演として、事務局・佐藤が「災害を超え,よみがえる仙台の文字文化-歴史資料保全活動10 年の軌跡」と題した講演を実施しました。東日本大震災での活動と、一連の保全活動を通じて確認された江戸時代先代の文字文化に関する史料紹介を行いました。

(4)9月30日宮城資料ネット10周年シンポジウム
 東北大学片平さくらホールで、宮城資料ネット発足10周年シンポジウムを実施しました。詳細はネットニュース203号を参照ください。
 
(5)11月9日山形県高畠町での史料撮影ワークショップ
 事務局・佐藤が、山形県高畠町屋代地区公民館で開催された講座「高畠町 地域の宝再発見事業~体験型講座~ 地域の文化財(ふるさとの宝)をデジカメで残そう!」(主催・高畠町、山形文化遺産防災ネットワーク)に講師として、「宮城方式」での古文書撮影技法を出講しました。地元からは15名ほどの参加を得ました。
 このような活動は、昨年9月のふくしま歴史遺産保全ネットワーク(ふくしま資料ネット)に続き2回目となります。出講した立場としては、今回参加した史料所蔵者も含む市民へ撮影方法を普及するにあたって、技術に関する情報をより整理する必要性など、多くの課題を得ることができました。

山形県高畠町での史料撮影講座風景(11月9日)

(6)12月2日神戸大学国際シンポジウムでの報告
 12月2日、神戸大学梅田インテリジェントラボラトリ(大阪市)で開催された国際シンポジウム「地域の歴史資料をとりまく世界の諸相」にて、に、事務局・佐藤が「宮城での史料保全の歩み-「ふるさとの歴史」を守り伝えるために-」のタイトルで報告しました。

(7)12月14日仙台市岩切市民センターでの講演
 12月14日、宮城県仙台市の宮城野区岩切市民センター主催の市民企画講座「震災で失われた文化物を通して岩切を考える」の第2回講座に、事務局・佐藤が出講しました。宮城資料ネットによる2011年4月旧岩切郵便局での活動や、そこで保全したふすま下張り文書の内容について報告しました。あわせて、現物の一部の展示と解説を行いました。参加者は地元の歴史サークル「岩切歴史探訪の会」の会員が中心でしたが、文書に登場する地名や遺構など、地元の歴史を知る手がかりとなる情報を共有する機会となりました。

 2013年も多くの方々のご支援で、多様な活動を展開いたしました。記して御礼申し上げます。2014年も引き続きのご支援、どうぞよろしくお願いいたします。