220号 3.11震災遺構 本間家土蔵修復の道のり

救う―救済活動東日本大震災

本間 英一(石巻市)


 3.11の津波により被災した本間家土蔵は明治30年(1897)の建築で、本来は江戸中期から続く武山家の土蔵だった。私の祖母は武山で祖父が本間であり、大正15年(1926)に本間家が引き継いだ。
 津波により、我が家のほとんどの家屋は倒壊、流失で失われたが、この土蔵だけは運よく残った。津波の後、この土蔵に初めて足を踏み入れたのは平成23年(2011)3月24日で、土蔵の内扉3枚は内側に倒され、1階部分は天井まで水に浸かった跡があった。取りあえず息子たちと貴重なものを運び出した。
 最初は土蔵を残すつもりで整理作業をしていたが、周囲の解体が進むにつれ、このままでは将来復興の障害になるのではないかと思うようになった。4月2日に解体することにし、貴重な古文書などを保存するため、文化財レスキューの要請を翌3 日に平川新先生へ電話で連絡した。折よく平川先生も石巻方面へ来る予定を立てており、4日には平川先生ら6名の方々が土蔵の下見に来た。

 4月8日にレスキュー活動をすることを決定、前日の7日にはまたマグニチュード7.4の大きな地震があったが、昼過ぎには11名の方々が来て、3時間かけて土蔵より古文書資料など段ボールで60 箱近くを東北歴史博物館へ運ぶことができた。

 この時に土蔵の保存について意見が交わされ、土蔵の状態を調査することになった。4月12日に古建築専門家の橋本浩司先生、一級建築士の佐藤敏宏さんらが土蔵調査を行い、調査報告書の作成を行った。
 調査報告では、土蔵屋根の南けらば部分(注1)、2階窓庇の破損、壁の剥離、下屋(注2)の流失があるが、本体は大きな損害がないとの結果が出た。その結果、斎藤善之先生らが土蔵の修復には募金を集めようということになり、もとより私も土蔵の解体は望んでいなかったので、修復に向けて発進することができた。
 5月25日には若宮丸漂流民の会と石巻千石船の会が発起人となり、亀山石巻市長へ、この土蔵を石巻の震災メモリアルとして保存継承してゆくように要望書を提出した。募金は若宮丸漂流民の会事務局長の大島幹雄さんが中心となり、石巻震災土蔵メモリアル基金を立ち上げ、6月7日には最初の募金があった。9月末までに300万ほどの募金が集まり、9月24日に現地で中間報告会を開いた。報告会では約60名が参加し、平川新「土蔵を残す意義について」、佐藤敏宏「土蔵は何故残ったのか」、本間英一「土蔵の歴史と保存について」、木村成忠「保存運動について」、大島幹雄「募金活動の現状について」の報告があり、土蔵見学~日和山見学を行った。募金は全国の皆様のおかげで、最終的に354万円(229名)ほどになり、修復に間にあう金額となった。


 修復は佐藤敏宏さんが責任者となり、翌2012年3月1日に、地元の宮林工務店と修復の契約を結んだ。3月13日に足場を組み、22日より庇、下屋の修復作業が始まった。その後しばらく間があったが、翌2013年4月17日に、木工事、屋根葺き替え工事などが終了した。 5月5日には佐藤敏宏さんの呼びかけで仙台から斎藤善之先生、千葉真弓さん、佐藤大介さん、石巻から3名の7名が集まり、土蔵の今後について打ち合わせを行った。左官工事は6月10日より始まり、11月9日に終了、これですべての工事は完了となった。
 修復終了後、土蔵内部の展示資料館資料のパネルなどを作成し、今年2014年4月からの土蔵内部の一般公開に向けて準備を開始した。3月25日には土蔵説明看板が立ち、2014年4月から、希望者に内部公開を行っている。

 土蔵周辺は震災直後瓦礫の山となったが、6月中旬にはほとんど瓦礫も片付き、残っていた家々も解体され、更地となった。旧石巻市内の土蔵や歴史ある古い建物も十数棟は解体されている。石巻市文化財である、旧ハリストス教会も、やっとこの4月に保存のため解体され、再建に向けて部材は保管されているが、まだ再建は見えない。ユニークなタイル張りで石巻市に寄贈された旧観慶丸商店もまだ手付かずの状態である。 土蔵のある門脇町付近は、この5月下旬から、やっと仮設道路の工事が始まる予定である。
 歴史資料レスキューについては、2003年7月の宮城県北部地震で、多くの古資料が失われたことを知っていたので、直ちに平川先生へ連絡することに躊躇はなかった。このような大災害で、不幸な出来事がある中、各地の旧家からこれまで日の目を見なかった貴重な資料が発見されたことは幸いであった。
 本間家土蔵の資料もこれを機にまた解析が進捗することは嬉しいことである。2003年に発足した文化財レスキュー活動は、今回の震災ではいち早く機能し、たくさんの貴重な資料を保全したことは本当に良かった。各地で埃にまみれながらレスキュー活動された皆様には心より御礼申し上げる。
 また、本間家土蔵が3年経たとはいえ、修復がいち早く終了したことは関係者各位と全国の募金を寄せてくれた方々に感謝するのみである。震災の痕跡が日々無くなるこの地で震災遺構として残ったこの土蔵は末永くこの地を訪れる人々に震災の記憶を語りかけるであろう。

 最後に、5月24日午後1時より、土蔵修復イベントを現地で行いますので関係者の方々にご出席いただければ幸いである。

*本間家土蔵 修覆イベント
日時 5月24日 午後1時~
場所 本間家土蔵(石巻市門脇町2-6-2)
内容 関係者挨拶・報告/餅つき/蓄音機の鑑賞会 など
問い合わせ 本間英一さん 0225-93-2777(石巻ローンテニスクラブ事務室)

◇編集注
注1 けらば : 切妻(きりづま)屋根の妻側(側面側)の端部
注2 下屋(げや): 母屋(おもや)から差し出して作られた屋根

◇編集後記

今回は、被災された史料所蔵者のお一人である本間英一さんから、本間家土蔵の現状についてご報告をいただきました。なお、本間さんは、石巻市門脇町の復興の様子についても発信しておられますので、合わせてご参照ください。

石巻市本間家土蔵修復工事についてのHP
*本間家資料レスキューに関する過去の宮城資料ネット・ニュース
 ・100号 ・103号 ・111号
 ・112号 ・118号 ・166号 ・204号